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2020年3月23日 (月)

グローバル・トレンドを読む ③

続き:

 

 デジタル社会と市民の活動

―― SNSなどデジタル技術と通信の発達は、市民の活動にどのような影響を与えているのでしょうか。

目加田 功罪両方があると思います。良い面では、#Me Too 運動などのように、SNSで拡散し大きく広げられるツールが登場したこと。情報共有にしても、昔は資料を何時間もかけて印刷し数日を費やし郵送する、あるいは通信費をかけファクスで送信していました。それがインターネットの時代になり、低コストで瞬時に拡散・共有できるようになりました。スマホなら無料で情報共有できるし、自宅にいながら国際会議に参加もできる。

 しかし、一方で、人と人との信頼関係の構築の点では、必ずしもよいことばかりではない。たとえば署名運動は、昔は一人ひとり目の前の人に問題を説明し、理解し納得してもらって、署名へ至るコミュニケーションがあった。その関係が一度結ばれれば、その人はその後も強い味方になるし、それぞれが知識を持って行動することで運動が広がり、市民社会の力として築き上げられていきます。けれども今のオンライン署名は「ワンクリック」なので、継続した関わりには結び付きにくいのではないでしょうか。

 インターネットによる情報拡散やネットワークづくりの速さと、人と人とが実際に会って議論する時間のかかるプロセス、この両方が必要なのではないかと思います。

 また負の面では、「監視社会」の怖さもある。個人の発信が監視され、当局に個人情報や一人ひとりの思想信条を握られる怖さです。

 

◆ 「市民社会」の実現へ

―― 「市民社会」の実現は日本ではどのように可能でしょうか。

目加田 日本では1998年に特定非営利活動促進法が成立して以来、多くのNPOが生まれ、最近ではクラウドファンディングを通じた社会運動も生まれてきています。しかし欧米などに比べると、日本では問題意識を持つ一部の人にとどまっている状態だという気がします。

 コツコツと専門的にやっている良識のある方たちはいつの時代にもいて、頑張っている。しかし、その人たちが声をかけたときに、「じゃあ私たちも立ち上がろう」という動きにはなかなかつながりにくい。自分ごときが何かをやってもどうせ変わらない。政府が決めたことは変えられない、と思ってしまうのでしょう。

 日本も多様化して、ニーズも一様ではありません。その声をすくって、うまく政策に転換させていくメカニズムを考えていかねばならない。本来ならば、市民社会の実相を映し出す政治を作っていかなければならない。しかし、実際には、国が、保守化した政治の枠に市民をはめ込んで規定してしまっている状況です。それを逆転させていかねばならない。

 それには、リーダーシップとフォローシップの両方が必要。率先して声をあげ、自分について来てほしいと呼びかける人がいても、日本の場合「ついていくよ!」という声があまり小さいので、リーダーシップは発揮されることなく、その人は、「異端児」として社会の中に浮いてしまう。

 外交においても、本来ならば、世界でみんなが課題だと思っている問題に、日本が率先して手を挙げて、主導権を握ってほしいところです。核軍縮問題はその最たるもので、どれだけアメリカに圧力をかけられても、この問題に関しては日本に圧倒的な道義的優位性がある。「ここだけは譲れない」と言える立場です。だから、確固たる姿勢で日本がリーダーシップをとれば、日本についていくという国は必ずある。一緒にやろうという国は必ず出てくるはずです。

 世界の歴史を見ると、社会を変えてきたのは多くの場合、マイノリティがやがてマジョリティになって歴史が動いてきた。どんな大きなことも、小さな積み重ねからでしか変わらない。自分で声をあげることが難しい人でも、しっかり声をあげ頑張っている人を応援する勇気ぐらいは、持てるのではないかと思う。そうでなければ、私たちは本当に、民主主義を手放すことになってしまう。

 日本の市民は、個人の能力は高く、助け合いの意識も高い。ポテンシャルもある。市民は無力ではないこと、市民こそが社会を変える鍵を握っていることを忘れてはならないと思います。

 

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