Science 歯周病原細菌による血栓モデルからみた閉塞性動脈疾患ならびに静脈血栓の病態 ⑥
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8. バージャー病の病態と診断基準
冷感、痺れ感、レイノー現象(寒冷刺激などにより指が白または紫色になる現象)から始まり、間欠性跛行へと進展する。その後徐々にまたは急速に安静時痛、潰瘍、壊死へと進行。1970年代の研究班の検討の中で突発性脱疽が初症状として20.4%に見られたという石川浩一らの報告がある。これは一般に急性症状で発症する血栓塞栓症としての意味合いがある。
皮膚症状としては、足の先端部が下垂によりどす黒くなるruborという所見がある。最近の検討ではこれは足部の静脈うっ滞が、虚血に加味されるためではないかと考えている。下肢潰瘍が進展すれば、多くは虚血で壊死へとなるが、静脈うっ滞がメインの潰瘍の場合もあるので注意が必要。
遊走性(逍遥性)静脈炎は、足部や手首付近に発赤を伴い、静脈周辺の腫脹が見られる。表在静脈は閉塞しており、痛みを伴う。2~3週で炎症は治るが、その後に色素沈着と静脈閉塞を残す。統計では50%以上に見ら
れるという。バージャー病患者の安静時痛は強烈で、その痛みを紛らわすために喫煙することから病気は進行し悪循環となる。神経ブロックが有効であるし、ベッドからの下肢下垂も夜間に特に有効。跛行は下腿の閉塞が主たる病変のために、足部の筋肉の痛みを訴える。
動脈撮影での特徴は、虫食い状が特徴の粥状硬化症とは大いに異なっている。四肢の末梢から閉塞が始まり徐々に中枢に向かう。突然の閉塞、先細り、cork screw 型側副路などが特徴。特に cork screw 型側副路は、バージャー病特有とも言える。閉塞した動脈にまとわりつくように発達した vasa vasorum の側副路がそうである。
喫煙がこの病気を発症させ、ニコチン依存となり、HLA、CD14、MyD88などの遺伝子一致すると病気は進行する。合わせて歯周病の悪化が歯周病菌血症を助長して進行すると考えれば分かりやすい。
診断基準(塩野谷)は、50歳以下の発症、ヘビースモーカー、下肢の動脈閉塞、上肢の動脈閉塞が遊走性静脈炎と、さらに粥状硬化症悪化因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病がないことである。しかし、この基準に一つでも合わない症例群はどうなるのかは、一切書かれていない。
9. 喫煙(直接・間接)と血管病変
たばこの主成分のニコチンは、バージャー病の犯人ではないかと考えられ研究されてきた。動物を用いた長期にわたる喫煙実験でもバージャー病は生じていない。血管の攣縮を引き起こし、レイノー現象、冷感の促進因子となるが、化学物質であるため免疫学的反応は起こさない。ただし他の蛋白と関連して、補助的に免疫反応に関与する可能性はゼロではない。
ニコチンと歯科との関係は、我々より歯科医師の専門である。たばこを吸う人の歯は「めちゃくちゃ悪い」の一言だ。口臭にも関係、依存症になればほとんどの患者は禁煙させても「禁煙した」と噓をつくことは常套手段である。ニコチンの代謝物である血中や尿中のニコチンを調べると、ほぼ100%、「禁煙した」は噓であったという。
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