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2020年3月31日 (火)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~④

続き:

 

5. カテキン結合ゼラチン

 EGCGや他のカテキンは、多様な薬理効果があり、細胞自身への働きかけや、細胞周囲の環境に影響を及ぼす潜在能力を持つ。では、骨再生領域に対してEGCGはどの程度その効果が報告されてきただろうか。

 筆者らが研究開始した2012年度当時において、EGCGが生体外(in vitro)で骨芽細胞の機能を高める研究や、幹細胞の骨芽細胞分化を促す報告などはすでに存在していた。これらはEGCGを用いた骨再生材料開発への足がかりとなる知見であったが、一方、生体内(in vivo)で骨再生に成功した論文は乏しく、EGCGとα型リン酸三カルシウムを混合した研究がみられるのみであった。EGCGは広く知られた物質であり、これまで他の骨再生医療研究にも試されてこなかったとは到底考えられず、筆者らはEGCGの構造を再検討してみることにした。

 その結果、ポリフェノールであるEGCGは、カルボキシル基やアミノ基に比べ反応性が乏しい水酸基で囲まれていることに気が付いた。この洞察をもとに、筆者らは in vitro では骨芽細胞に活性を与えるEGCGが生体内で骨形成能を発揮できない要因として、「EGCGは患部に単純に注射される、あるいは何らかの材料と単純混合されて埋入された場合、その低反応性によって患部に留まることができず、in vitro同様の薬理効果が発揮されていない」という一つ目の仮説を立てた。さらに、この仮説から「患部での貯留性が高く、生体親和性が高い高分子とEGCGを化学的に結合させることができれば、生体内でも骨再生効果を発揮できる」という二つ目の仮説を構築するに至った。

 これらの仮説と、過去にゼラチンを用いて行った骨再生研究の経験をもとに、EGCGをゼラチンに結合させたEGCG結合ゼラチンスポンジ (EGCG-GS)の研究開発に着手した(特許第6355959号)。高分子には多様な候補が考えられるが、高い生体分解性、入手のしやすさ、価格、合成方法との相性や過去の成功体験等を総合的に考慮し、ブタ皮膚由来 Type A ゼラチンを選択。

 高分子とEGCGを結合させる合成法には、ゼラチンのカルボキシル基とEGCGの水酸基でエステル結合を形成する水中合成方法を用いた。一般的に高分子の合成には有機溶媒を用いるが、環境問題や有機溶媒の細胞為害性を考え水中での合成法を選択。実際合成を行ってみると粉体状の物質が多く合成されたが、臨床応用の容易さを考え、様々な条件を探索、最終的にスポンジ状を形成しうる条件を見つけた。

 その後、同材料の骨再生能をマウス頭蓋冠に形成した臨界骨欠損を用いて評価した結果、EGCG-GSによる骨形成の促進が認められた。一方、熱架橋ゼラチンにEGCGを単純に滴下浸漬した群では骨形成が促進されなかったことから、前述した仮説の一端を立証したと考える。

 EGCG-GSはEGCGの薬理作用を生体内で発揮させたが、スポンジ自体は脆弱であるとともに骨再生能も十分とは言えず、筆者らはEGCG-GSのさらなる改良に取り組んだ。コラーゲンやゼラチンは、真空熱処理を施されると熱架橋が形成され溶解性が低下することが知られている。ゼラチンの溶解性の低下は細胞に頑健な足場を提供することにつながると予想され、同技術をもとに「EGCG-GSへの真空熱処理は操作性・骨形成能をさらに高める」との仮説を立てEGCG-GSの改良に取り組んだ。以降、真空熱処理(Vacuum heated : vhと示す)によって処理されたEGCG-GSをvhEGCG-GSと表記。

 その結果、vhEGCG-GS埋入群では、EGCG-GS群に比べ顕著に高い骨形成を示した。ラットの頭蓋冠骨欠損モデル内での結果ではあるが、わずか4週で9mmの大きな骨欠損がvhEGCG-GSによって促進され新生骨でほとんど閉鎖された。最適条件下での比較は行えていないが、同様の動物モデルを用いた場合の自家骨と比較してもvhEGCG-GSの骨形成量は遜色なく、vhEGCG-GSが自家骨に匹敵する骨再生能をもつ可能性が示唆された。

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