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2020年3月28日 (土)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~①

本田義知(大阪歯科大学大阪中央歯科研究所准教授)さん・田中知成(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科准教授)さんの共同小論文を記載:コピーペー:

 

はじめに

 

 猛暑の中行われたドバイでのマラソンにおいて、途中棄権する選手が続出し、東京2020オリンピックでのマラソンの舞台が札幌に変更になったニュースは記憶に新しい。常に極限状況で争われるスポーツにおいて、各選手が生み出す記録は、彼らの潜在能力だけではなく、天候、湿度、温度、応援など、多様な環境要因によって広く影響を受ける。

 同様に、筆者らは再生医療に関する様々な基礎研究を進めていく中で、環境というものを整えることの重要さをこれまで以上に強く感じている。言い換えると、どんな細胞(選手)を優秀にしても環境が整わなければ、望ましい再生(結果)は得られないことが多い。

 再生医療で必要なのは、元来言われている3要素(細胞、足場、成長因子)では十分ではなく、それらを支える環境を加えた4要素ではないだろうか。しかし、これまで環境についてまとめている論説は少ないように見受けられる。ここでは、改めて細胞に影響を与えうる細胞外環境を概説した後、現在筆者らが精力的に研究を進めている植物由来物質(茶カテキン)を結合させた骨再生材料の可能性について言及したい。

 

1. 組織再生を司る細胞の機能に影響を与えうる環境因子

 再生医療に使われる生体材料・成長因子・細胞が持つ機能の詳細については個々の総説・原著論文に委ねるが、これらは埋入された際に周囲環境に多様な反応を引き起こす。

 すでに上市された材料が優れた骨・歯周組織再生をもたらしている結果を踏まえると、各材料は個々の環境因子に影響を与えるとしても、その総和は最終的に組織再生につながる環境の構築に行き着いていると推察される。もしそうであれば、細胞外環境を今より正の方向に導く(負の環境を抑制し、正の環境を高める)ように整える物質(薬剤、タンパク質や糖鎖、細胞等)を生体材料に付与することは、理論的に組織再生を向上させる強力な武器となりうる。

 しかし、一般的に、これらの物質は高価で、費用対効果に大きな課題を持つ。試薬レベルでさえも種々の成長因子はわずか数μgで数万円の費用がかかるし、細胞購入費も 1バイアルで数万円は容易にかかる。

 筆者らは、今後の再生医療においてブレイクスルーが生み出される土台を築くためには、各種インフラ(実験装置、試薬、生体材料)の経済面や労働力面での著しい改善が必須と考えており、安価に入手可能であり、多機能を持ち、環境に優しい植物由来物質に特に注目し研究を進めている。

 

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