進行する「三権分立」の空洞化 ②
続き:
■ 明暗を分けたゴーン事件
片や、政治介入を容認した法務・検察の「自壊」は止まるところを知らない。2018年11月に逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン事件はそれを象徴している。逮捕から1年後の19年暮れ、日本の司法を襲った保釈中のゴーン元会長のレバノンへの逃亡劇は、2020年代への法秩序の崩壊現象の始まりを予感させた。
サスペンス映画を地で行く、日本脱出の衝撃にとかく目を奪われがちである。だが、翻って考えてみると、ゴーン元会長逮捕の衝撃が一瞬にして、逮捕容疑の有価証券報告書虚偽記載に対する「形式犯」批判から、「人質司法」との汚名を戴く長期勾留など人権無視という”日本特殊論”に対する国際批判を招き、刑事司法制度そのものまで揺るがす事態に発展し、ゴーン捜査そのものがすでに漂流を始めていたのである。しかもゴーン捜査は、八木宏幸東京高検検事長(54年)を後ろ盾に、山下貴司法相、森本宏東京地検特捜部長の平成2年司法修習生同期の、いわゆる「特捜検察」ラインが仕掛けた事件だったため、「大阪地検特捜部証拠改竄事件による”自壊”以上に、「外圧」による特捜崩壊への危機感が司法界に急速に広がっていた」(元特捜検事)。
この時すでに、検事総長を確かなものにする八木東京高検検事長の後任をめぐって、林刑事局長を昇格させる法務省案が首相官邸から突き返されていた。省内からも待望論が根強かった林局長は、18年1月、名古屋高検検事長へ放逐、黒川氏が1年後に事務次官から東京高検検事長へと歩を進め、明暗を分けた。
皮肉にも、東芝不正会計事件で、黒川氏が”警鐘”を鳴らすどころか、立件断念に追い込んだことが、”弱肉強食”の世界市場を勝ち抜いたゴーン元会長らグローバル人材に、”ぬるま湯”的な日本の企業法制の盲点に付け込まれることになった。さらに、国際感覚の欠如が著しい法務・検察からすれば、「日産の会長を逮捕しただけで、フランス政府が大株主であるルノーの会長を逮捕したという認識がなかったのでは。
これが、米国の大手自動車会社の経営トップだったら、話は別だったかもしれないが」(官邸スタッフ)、それも後の祭り。
それどころか、国際組織犯罪や暴力団組織など組織犯罪捜査の切り札と期待された「司法取引」を、一民間企業の個人犯罪に適用したことは、当時ルノーとの合併にハンドルを切ろうとしたゴーン元会長とこれに頑強に反対する日本人役員らとの経営方針をめぐる社内対立に介入したとの誹りは免れない。同時に、「国家vs.市場」のせめぎ合いとなった東芝事件にも通底する日産事件が、日・フランス間の自動車覇権争いをバックグラウンドとする、安倍政権と表裏一体をなす「国策捜査」と映っても何ら不思議でもない。
« 進行する「三権分立」の空洞化 ① | トップページ | 進行する「三権分立」の空洞化 ③ »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- Report 2023 感染症根絶 ③(2023.11.28)
- Report 2023 感染症根絶 ②(2023.11.24)
- Report 2023 感染症根絶 ①(2023.11.15)
- Science 糖尿病における歯周病 ~基礎研究からその問題点を考える~ ⑦(2023.11.11)
- Scince 糖尿病と歯周病 ~基礎研究からその問題点を考える~ ⑥(2023.11.08)