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2020年4月30日 (木)

「人間と科学」第311回 体と心の5億年(1)―三木成夫 ①

布施英利(解剖学者・美術評論家)さんは「ヒトの心の5億年、ヒトの体の5億年」というようなテーマについて書いてみたい。コピーペー:

 毎回、キーとなる人物(=学者)を取り上げ、その研究や著作、人物の紹介などを通して語る。第1回は、解剖学者三木成夫(1925~87年)を取り上げる。

 三木成夫は、生前、2冊の著作を残しただけだった。『胎児の世界 人類の生命記憶』(中公新書、1983年)と『内臓のはたらきと子どものこころ』(築地書館、1972年)で、しかも後者は講演の記録を活字にしたもので、著作と言えるのは、実質的に『胎児の世界』一冊と言ってもいい。

 そんな三木であるが、没後、その『内臓のはたらきと子どものこころ』は、『内臓とこころ』とタイトルを改め文庫化され(2013年)、同じく短文を集めた『生命とリズム』(2013年)が河出文庫から相次いで出版された。また昨年も三木の文章を抜粋し再構成したアンソロジー集『三木成夫 いのちの波』(平凡社)が出版された。この平凡社のシリーズには、寺田寅彦、牧野富太郎、柳田國男などが名を連ね、三木の前は折口信夫だった。

 いわば、これらの偉人と肩を並べ、死後ますます評価が高まっているのが、解剖学者・三木成夫なのである。

 三木成夫は1925年香川県に生まれた。東京大学医学部を卒業し、東京医科歯科大学で教鞭をとり、東京藝術大学に在職中、脳出血でその生涯を終えた。と書くと、堅物の学者先生というイメージを抱きかねないが、かなりの変わり種の先生であった。東大生の時は、バイオリニストになりたいと1年間休学し、バイオリニスト江藤俊哉氏に師事した。三木の親としては、息子がせっかく東大医学部に入ったのに、音楽の道に情熱を示すなど気が気ではなかっただろう。

 私(布施)は1980年に東京藝術大学に入学し、そこで三木の授業を受けたのだが、教壇でいきなり「うんちを握れ!」と叫んだり、「人間は星だ」という意味不明のことを力説したり、また妊婦の体内にマイクを仕掛け胎児が聞いているであろう体内音を録音したレコードを、教室一杯の音量で流したりもしていた。もちろん三木は本気で「生命とは何か」を語っていたのであり、授業が終わると学生から拍手が起こるという異色の講義であった。

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