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2020年4月17日 (金)

Clinical リハビリテーション栄養における医科歯科連携の重要性 ⑤

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5. サルコペニアの原因

 サルコペニアの原因は、加齢のみの影響による一次性と、加齢以外の活動、栄養、疾患による二次性に分類される。加齢よるサルコペニアでは、40歳以降で1年に1%程度、筋肉量が減少する。活動によるサルコペニアは廃用性筋委縮であり、1日中ベッド上で安静に過ごすことで、筋肉量は1日0.5~1%減少する。栄養によるサルコペニアは、エネルギー摂取量が必要量の半分程度の場合、筋肉量が1日0.2%減少。疾患によるサルコペニアには、誤嚥性肺炎などの急性感染症、手術、急性外傷など急性炎症である侵襲、がん、慢性臓器不全、膠原病など慢性炎症である悪液質、多発性筋炎、筋委縮性側索硬化症などの原疾患が含まれる。

 これらのうち、①病院での不適切な安静や禁食が原因の活動によるサルコペニア、②病院での不適切な栄養管理が原因の栄養によるサルコペニア、③医原性疾患によるサルコペニアを、医原性サルコペニアと呼ぶ。医原性サルコペニアは、急性期病院での誤嚥性肺炎など急性炎症の患者への「とりあえず安静」、「とりあえず禁食」、「とりあえず水電解質輸液のみ」の指示で生じやすい。医原性サルコペニアを予防することが、寝たきりや摂食嚥下障害の予防につながるため、適切な評価のもとで早期離床、早期経口摂取、早期からの適切な栄養管理を行うことが大切。

6. サルコペニアの摂食嚥下障害

 サルコペニアの摂食嚥下障害とは、全身および嚥下関連筋の筋肉量減少、筋力低下による摂食嚥下障害だ。超高齢社会の日本における摂食嚥下障害の三大原因疾患は、脳卒中・認知症、サルコペニアであると考える。特に誤嚥性肺炎の場合には、サルコペニアによって摂食嚥下障害が悪化しやすい。サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート(略)を実施可能だった肺炎の入院患者のうち、81%(187人中152人)にサルコペニアの摂食嚥下障害を認めた報告もある。そのため、すべての誤嚥性肺炎患者に、サルコペニアの摂食嚥下障害の存在を疑うべきである。

 2019年に日本サルコペニア・フレイル学会、日本嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会によって、『サルコペニアと摂食嚥下障害四学会合同ポジションペーパー』が発表された。ポジションペーパーの日本語訳は四学会すべてのホームページに公開されている。サルコペニアの摂食嚥下障害とは、「全身と嚥下関連筋のサルコペニアによる摂食嚥下障害である。全身のサルコペニアを認めない場合には、サルコペニアの摂食嚥下障害と診断しない。神経筋疾患によるサルコペニアは、サルコペニアの摂食嚥下障害の原因に含めない。一次性のサルコペニアと、活動低下、低栄養、疾患(侵襲と悪液質)による二次性サルコペニアも、サルコペニアの摂食嚥下障害の原因に含む」と定義する。

 急性期病院のリハ科に摂食嚥下リハの依頼があった入院患者のうち、32%にサルコペニアの摂食嚥下障害を認めた報告がある。また、入院前には摂食嚥下障害のなかった高齢入院患者で、入院後2日間以上禁食となった患者を対象に,60日後の摂食嚥下障害の発生とその要因を比較した研究がある。対象者の26%に新たに摂食嚥下障害を認め、摂食嚥下障害となった患者全員に、全身のサルコペニアを認めた。これより、本研究で禁食後に生じた摂食嚥下障害の大半は、サルコペニアの摂食嚥下障害と考える。また、全身のサルコペニアを認めない場合には、入院後2日以上、禁食となっても摂食嚥下障害の新規発生がなかった。つまり、歯科診療所で Possible sarcopenia を予防、治療して、全身のサルコペニアがない状態にすれば、急性期病院に入院して2日間以上、禁食となっても摂食嚥下障害にはなりにくいといえる。サルコペニアの摂食嚥下障害者を予防するために、歯科医師が Possible sarcopenia を診断することが重要である。

 

 

 

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