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2020年5月22日 (金)

Clinical 地域連携医療のための歯科医師に必要な栄養学 ④

続き:

4) 第4レベル:食べる機能の障がい

 摂食嚥下機能障害が起こると十分な栄養や水分を摂取することが困難となり、タンパク質、エネルギー、ビタミンなどが不足する低栄養状態となる。タンパク質は筋肉などの構成に関するため、タンパク質の摂取量が低下することにより筋力が低下し、摂食嚥下に関与する筋力も低下。そして摂食嚥下機能が低下し、さらに栄養摂取量が低下するという悪循環が生まれる。血清水分量についても同様に、高齢者はもともと体液量が減少しているため脱水が起こりやすく、循環のみならず代謝や呼吸にも影響し意欲の低下、意識低下などが起こり得る。

 また、摂食嚥下機能障害患者にとって食形態は大きな問題となる。様々な食形態(図:略)があるが、医療関係者や、退院後の施設や在宅などでの多職種の連携のために、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類を主軸に参照する他の分類を提示している(図:略)。

 (1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(以下、学会分類2013)

  学会分類2013は、日本国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目的としている。食事形態(嚥下調整食)と水分のとろみについて段階→0j, 0t ,1j, 2-1, 2-2, 3 ,4ごと分類している。

 (2)特別用途食品 嚥下困難者用食品許可基準

   厚労省は2009年から嚥下困難者用食品許可基準を制定。この許可基準はⅠ、Ⅱ、Ⅲの 3段階に分かれている。評価項目は、硬さ、付着性、凝集性の3項目となったいる。

 (3)スマイルケア食

   農水省が介護食品と呼ばれてきた食品の範囲を整理し、「スマイル食」として分類を整備したもの。健康維持上で栄養補給が必要な人向けの食品に「青」マーク、嚙むことが難しい人向けの食品に「黄」マーク、飲み込むことが難しい人向けの食品に「赤」マークを表示。

 (4)ユニバーサルデザインフード(UDF)

   介護食品の販売を行っていた企業が日本介護食品協議会を立ち上げ、制定した規格に適合する商品に付けている。

5. デンタルクリニックにおける栄養指導の必要性

 歯科診療の実際の現場では、歯科治療中もしくは治療直後に、痛みや腫れなどによって食事が一時的に困難になることがある。歯科の外来診療では、外科処置、義歯セット、矯正治療など、侵襲や痛みを伴う治療が多岐にわたり行われている。このような歯科治療に一時的な食事摂取困難には日常的に遭遇しているが、その後短期間で日常の食事が摂取できるように回復することがほとんどであるため、これまで見過ごされてきたのが現状である。

 我々の調査したところ、歯科治療に伴う問題点は、多いものから「かたいものが食べられない」、「嚙むことが難しい」が多くの割合を占めた。また口腔外科、矯正歯科では「口が開かない」という回答の割合が他科よりも多かった。これらの調査により潜在的に食事に関するサポートが必要な患者が多数存在していたことが伺われ、歯科治療に伴う疼痛や開口困難があっても歯科治療中であることから、それまでのように食事をとることができない状態は仕方ないものと諦めていた。しかし、歯科治療中に患者が抱える食事に関する問題を解決するためには、治療の内容やその経過、年齢層による嗜好の違いなどを考慮した適切な食事指導の内容を検討する必要があると考える。

6. 食育と歯科

 平成19年6月、日本歯科医師会(日歯)・日本歯科医学会・日本学校歯科医会・日本歯科衛生士会は食育推進宣言を行っている(以下、一部抜粋)。

 

  食は命の源である。人は食物を「口」から摂りこみ、十分に咀嚼することによって身体の栄養のみならず五感を通した味わいや寛ぎなどの心の栄養   を得る。また、食物の知識と「食べ方」を通して健全な心身の糧となり、豊かな人間性を育むことが可能となる。

 

 以上のような観点にたって、次の食育のサポートを行う。

1.「食べ方」を通して、生涯にわたって安全で快適な食生活を営むことを目的とした食育を推進する。

2.あらゆる場と機会を通して、口の健康を守り五感が味わえる食べ方ができる食育を推進する。

 平成21年7月に厚労省から出された「歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書」でも食育推進の必要性が提唱された。食べ方を中心に捉えたライフサイクルに応じた食育の推進の展開が大きな違いとなる。歯科では食べ方の特徴から 3つのステージに分けて食育の推進が図られるよう示されている。

①食べ方を育てるステージ(乳幼児期・学齢期)の食育

②食べ方で健康を維持するステージ(成人期)の食育

③食べ方で活力を維持するステージ(高齢期)の食育

 食育は子どもだけでなく生涯にわたって必要であり、各ステージの中で食育が推進されることが期待されている。

1) 食べ方からの食育の展開の基本:栄養士と連携

 さらに日歯と日本栄養士会は、2010年に「食べることは生きること」視点から「健康づくりのための食育推進共同宣言」を発表した。宣言では、歯科医師、管理栄養士、栄養士などの「食」と「健康」のスペシャリストすべてが、健全な食生活を実践できる人間を育て、食育を推進していくことを公表している。このように歯科医療全体として歯科と栄養のつんがりを強調している。

2) 子どもの口腔機能の発達と食形態

 大きく乳児期、幼児期に分けて評価内容を述べる。口腔機能のみならず全身の発達状態(全身運動、手の動きや言語の発達)を評価することも大切。また食べている食品も口腔機能に合っているか確認が必要になるので、できればデンタルクリニックの一角で実際に食べてもらったり、ビデオを撮るなどして評価することが必要。

(1)乳児期(乳児期前半:出生~6か月<離乳食開始前>頃:乳児期後半:離乳食開始~12か月頃)

 乳児期前半と後半で異なり、前半では舌の前後運動を呈する乳児嚥下が認められてもおおむね問題はない。摂取するものは母乳やミルクが主。後半は離乳食を開始し、口唇閉鎖や舌の前後から上下の運動に変化し、咀嚼運動を獲得する。食形態はペースト状から咀嚼の必要な軟らかい食品まで半年間でめまぐるしく変化する。

(2)幼児期(1歳から小学校入学前の未就学児)

 食べる意欲を育み、手づかみ食べや食具食べを促し、萌出している乳臼歯で嚙むことを増やしていく。しかし乳臼歯、特に第1乳臼歯の咬合と筋力では噛みつぶせても、すりつぶすことはうまくいかないので、食事は幼児食の提供が望ましい。しかし保育者は離乳食が終わると大人と同じものが食べられると考えることが多く、処理しにくい食品が提供されることがある。管理栄養士(栄養士)や保健師のみならず、保育士や幼児園教員などと相談する機会が必要である。

 

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