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2020年5月20日 (水)

Clinical 地域連携医療のための歯科医師に必要な栄養学 ②

続き:

3. メタボリックシンドローム

 肥満とは身体に脂肪組織が過剰に蓄積した状態のことで、基準はBMI 25 以上と言う。中でも、肥満症は治療が必要な肥満のことであり、内臓脂肪蓄積型に眼を着ける。メタボリックシンドロームh、内臓脂肪型肥満に加えて、脂肪代謝異常・高血圧・高血糖のうち2項目以上が当てはまる状態。

 メタボリックシンドロームと現在歯数の研究では、男性において歯の減少によりメタボリックシンドロームの危険性が上がっていた。これは、歯の喪失が食品の選択と摂取に影響を与え、肥満もしくは瘦せることと関係があることを示す。歯数の減少に伴い、硬い食品が噛めなくなり、これらの食品を避け、比較的噛みやすい穀類やイモ類、菓子類など、炭水化物を主とする食品の摂取が多くなる。高中性脂肪血症はメタボリックシンドロームの危険因子の1つのため炭水化物の過剰摂取には注意すること。

 しかし、適合の良い(具合が良い)補綴装置やインプラント等により器質的な欠損を補い健やかな口腔機能が保たれ、噛みやすい、咀嚼しやすい状態になると、摂取する食品に変化が出ると考えられる。つまり食べる前に口腔環境を整えることが栄養バランスに影響するということが言える。

4. オーラルフレイル

 オーラルフレイルとは、「老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程」である。オーラルフレイルという言葉自体は国民への啓発の意味が強いものであるが、口の機能と栄養の関係を中心に述べる。

1) 第1レベル:口腔の健康リテラシーの低下

 ポピュレーションアプローチが主となり、地域のかかりつけ歯科医の活躍の場となる。臨床の現場では、硬いものが食べにくい、むせる、噛みしめられないといった口腔機能低下を自覚する訴えが認められる。これに伴い摂取できる食品の種類も減少する。しかしまだこの段階では明らかな口腔機能低下は認められない。退職等で社会参加の機会が少なくなり、外出が減り、簡単に食べやすい食品のみを食べるという生活により、口腔のみならず身体機能が少しずつ低下している状況と考える。定期的な歯科医院の通院や家族ぐるみで診療を受けている(ホームデンチスト)場合に、生活の変化など最近の様子を聞いてみるなども有効であると考える。

2) 第2レベル:口のささいなトラブル

 これは地域包括ケアシステムで提唱されている「介護予防普及啓発事業」の口腔機能向上および栄養改善の取り組みであり、対象は65歳以上のすべての高齢者に実施できる。口腔機能向上および栄養改善の取り組みとして、口腔機能や栄養改善の観点からの介護予防教室や講演会の実施などがあげられる。

 地域包括ケアシステムにつながらない高齢者も、歯や義歯の痛みといった主訴からデンタルクリニックを受診することがあると考えられる。例えば、口腔に痛みがあり食べにくいという患者は、軟らかい菓子パンと牛乳のみ等で生活しており栄養状態が悪い場合がある。そこでデンタルクリニックから、地域包括ケアシステムにつなぎ、管理栄養士による栄養管理のみならず、介護予防や生活支援サービスなど多職種と連携し支援につなげることがかのうである。

 特に栄養については、地域には栄養管理を担う栄養ケア・ステーション(栄養CS)がある。2018年度から、栄養CS認定制度が開始され、地域住民が分かりやすいように各都道府県栄養士会のホームページ上で検索できるようになっている。栄養の問題が生じた時に、このような栄養CSにつなげることも有効だ。医師会立栄養CSや病院型栄養CSなどの設立が活発になっているが、現在のところは歯科医師は直接的に管理栄養士と協働して行う栄養指導の医療・介護保険請求はできない。歯科医院所属の管理栄養士が、利用者のかかりつけ医師より訪問栄養食事指導の指示を受け、居宅療養管理指導事業者として咀嚼・嚥下障害などの療養者宅に出向き算定することがある。しかしこのような場合、算定がとても複雑になってしまうのだ。管理栄養士による、咀嚼・嚥下機能に応じ食形態を考慮した栄養管理や、歯科的な問題による低栄養、地域 NST (nutrition support team : 栄養サポートチーム)への歯科医師の参画など、管理栄養士、栄養士と歯科医師の協働は今後も発展すべきであろう。

 また、食品摂取の多様性(多種類)があると、筋量や握力、歩行速度などの身体機能の低下リスクが減少したという報告もある。食品摂取の多様性スコアは簡易なものであるため、デンタルクリニックでも利用しやすく、お食事手帳などを利用するのも一案である。食品摂取の多様性得点を3つの群(9点以上、4~8点、3点以下)に分けたところ、9点以上の群に比べて、4~8点の群は18%、3点以下の群では64%も生活機能の低下率が高くなっていた。様々な種類の食品を摂取することは、炭水化物を抑え、タンパク質や豊富なビタミンを摂取することにつながり、筋量や身体機能に良い影響を及ぼすと考える。

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