Science <舌と脳の味覚地図> ④
続き:
5. 大脳皮質味覚野は吻側から甘味、塩味、苦味に関係する
大脳皮質味覚野は、中大脳動脈周囲と嗅溝背側にあり、味覚ニューロン活動を電気生理学手法で記録した場合、甘味は吻側、苦味は尾側、塩味は中間と局在性が認められた。また、光学測定(特定の波長の光を大脳皮質表面に照射し、反射光から神経細胞の活動を捉える)で、同様な局在性があると報告された。しかし、一方でそのような局在性はなく4基本味に対する応答領域はオーバーラップしていたという報告もあった。
大脳皮質の推定の甘味領域(吻側)と苦味領域(尾側)のニューロンに、チャネルロドプシン(特定の波長の光によってニューロンに興奮を起こす)を発現させて、脳内に光ファイバーを挿入し、その領域のニューロンのみを興奮させるという実験が行われた(図 略)。――つながった2部屋を用意し、片方の部屋と甘味領域の興奮との条件付けを経験したマウスでは、甘味に条件付けされた部屋にいることを好むが、苦味領域の興奮と部屋が結びつくと部屋に対して忌避的になり、もう片方の部屋にいる時間が長くなった。これは甘味に対する嗜好性行動と苦味に対する忌避行動と考えることができ、刺激された吻側領域は甘味に、尾側領域は苦味に関係することを示した。
おわりに
味覚は栄養素と毒物を識別するセンサーの役割を持っており、その神経情報が味覚伝導路の別の領域で処理されるのは、誤情報を伝達しないというニューロンの安全策の一つと考えられる。嗜好または忌避を生む味覚については、舌、神経核および大脳皮質でニューロンの味覚局在性が存在する可能性があったが、今後、情報に関わる扁桃体や記憶学習に関わる海馬などとの関連が解明されることを期待したい。
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