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2020年5月10日 (日)

Science <舌と脳の味覚地図> ①

横田たつ子(愛知学院大学歯学部生理学講座講師)さんの小論文を載せる。コピーペー:

はじめに

 過って、舌には4基本味に敏感な部位あるとされたが(tongue map:舌の味覚地図)、10数年前から舌上の味覚感受性の局在は否定された。

 しかし近年、ヒトに対する味覚検査で、刺激の方法によっては、特定の味質(4基本味すべてではなく)に感受性の高い部位があるという報告もある。また、脳内を考えてみると、多くの感覚系の神経核や大脳皮質で、異なる情報は特定の領域に伝達されている(たとえば、聴覚の周波数局在、体性感覚の体部位再現など)。

 我々は味覚伝導路の延髄孤束核(1次中継核)および、橋傍腕核(2次中継核)で、味覚ニューロンの局在性(脳の味覚地図の可能性)を報告した。

 ここでは、最近までの舌と脳の味覚地図について紹介する。

1. 舌の位置によって味覚受容体と味細胞は異なる

 味物質が作用する味細胞は、約50~150個程度集まって味蕾を形成している。味蕾は舌乳頭に集まって存在するため、舌全体ではなく舌尖部、舌縁部および舌根部に主に局在。では、例えば舌尖部の茸状乳頭にある味細胞には、甘味受容体の発現が多いなどの特徴があるのだろうか?マウスの甘味受容体の発現量に対するガストデューシン(Gタンパク質)の比率は、口蓋と茸状乳頭で多く、葉状乳頭や有郭乳頭では少なかった。

 組織像から、味細胞にはⅠ~Ⅳ型細胞まであることが知られていたが、長らくその形態と機能の関係は分からなかった。近年、味覚受容体研究から、Ⅱ型細胞には甘味、苦味およびうま味受容体が、Ⅲ型細胞には酸味受容体があることが分かった。遺伝子改変によって甘味受容体を欠失したマウスは、甘味に対する嗜好性がなくなるが、別の味、たとえば苦味に対する忌避行動は変わらなかった。また、甘味受容体と苦味受容体は同じ味細胞に共発現しなかった。

 これらのことは、味細胞レベルで味が識別されているように見える。しかし、甘味細胞に苦味受容体を持つよう遺伝子改変されたマウスでは、苦味に対して、嗜好性を示した。これは正常マウスでは、味覚受容体と共に、味細胞とそれより上位の神経経路が、味の識別に重要であることを示唆している。

2. 味覚神経によって主に伝える味は違う

 口腔の味細胞に神経終末を送る味覚神経には、鼓索神経、舌咽神経および大錐体神経がある。鼓索神経は舌で食物を探査し味わい、大錐体神経と舌咽神経は嚥下のためのシグナルを嚥下中枢に送る役割があると考えられる。

 味覚の電気生理学研究では、サル、ラット、マウス、ハムスター、カエルなどの動物が用いられてきたが、味覚応答にはかなり種差および系統差があって、これら動物実験の結果は、ヒトと異なる可能性があることを注意しなければならない。しかし、サルとラットではやや違いがあるものの、味覚伝導路はよく似ている。ラット鼓索神経は塩味と酸味に、大浅錐体神経は甘味と酸味に、舌咽神経は酸味と苦味に応答が高く、マウス鼓索神経は、甘味、塩味、酸味に応答が高かった。

 これらの結果は、味覚神経によって主に伝える味質が異なることを示している。これらの味覚神経は延髄孤束核にオーバーラップを持ち投射するが、孤束核吻側部では、鼓索神経と舌咽神経の間に重なりがない領域があった。

 

 

 

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