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2020年5月11日 (月)

Science <舌と脳の味覚地図> ②

続き:

3. 延髄孤束核の味覚地図は吻尾側方向にある

 延髄孤束核を水平面(小脳の真上から透視するように)で見ると、閂から吻側にV字に延び、吻側から味覚(鼓索神経、大錐体神経、舌咽神経および迷走神経)、体性感覚(舌咽神経)、内臓感覚(迷走神経)の投射を受ける。味覚神経は孤束核の吻側1/3にオーバーラップして投射する。

 我々は、麻酔下ラットの小脳表面からガラス微小電極で孤束核味覚ニューロンを細胞外記録した。味覚ニューロンは4基本味(塩味:NaCl、酸味:HCl、甘味:sucrose、苦味:quinine)のどの味に最も強く応答するかによって、塩味ベスト、塩味/酸味ベスト、酸味ベスト、甘味ベストに分類した。電極にはあらかじめ色素を充填しており、色素を電気泳動して記録位置をマークした。動物は深麻酔後に安楽死させ、リンゲル液およびホルマリン液で還流固定し、通法に従い脳を冠状断の凍結切片とした後、クレシルバイオレットで染色を行った。組織標本は光学顕微鏡画像としてコンピューターに取り込み、ImageJ(NIH Image の Windows version)で計測を行い、味覚ニューロンの位置を、孤束核水平面上に再現した。

 塩味ベストは、塩味/酸味ベストよりも吻側に位置し、塩味による興奮は吻側で見られた。甘味ベストおよび、苦味ベストについては、記録ニューロン数が少なかったため分布を決定するに至らなかった。孤束核味覚ニューロンについて、舌上の受容野を調べた研究と比較すると、孤束核吻側は舌前方、尾側は舌後方に受容野があり、塩味ベストは主に舌前方の鼓索神経由来、塩味/酸味ベストは舌後方の舌咽神経由来と推定できる。Ca2+ イメージングで、低濃度塩味に応答する味細胞は、アミロライド(上皮性 Na+ チャンネル阻害剤)によって興奮が抑制され、高濃度塩味から応答する味細胞は抑制されなかった。また、塩味ベストの鼓索神経はアミロライドに感受性があり、塩味、酸味に幅広く応答する鼓索神経はアミロライドに影響されなかった。

 これらのことから、我々の研究における孤束核味覚ニューロンの塩味ベストは、味細胞の上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)由来の低濃度塩味(嗜好)に、塩味/酸味ベストは ENaC 以外の高濃度塩味(忌避)に関することが推定できる。

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