« デジタル教科書は万能か? ④ | トップページ | Clinical 地域連携医療のための歯科医師に必要な栄養学 ① »

2020年5月18日 (月)

デジタル教科書は万能か? ⑤

続き:

◉ 本とコンピュータ画面の違い

 端的に言えば、本の素晴らしいところは情報量が凝縮されて少ないことにある。静止した対象に向かい直線的にひたすら注意する必要があり、情報量が少ないので思考や想像を巡らせないと理解できない。だから、ページをめくりながら本を読むと強制的に思考し、深く思考をすることになり、深くストーリーに関わることになる。

 対照的に大量の競合する情報や刺激にあふれているインターネットやコンピュータ画面上で本を読むと、情報と刺激の洪水に晒されるため、ワーキングメモリーがオーバーフローしてしまう。思考することができずに、受け身になってしまい、主体的に思考をめぐらせることに難しくなります。

 このように、印刷された本と、コンピュータ画面とは情報量が全く異なるのだ。コンピュータ画面に向き合うと受け身になり、主体的に考えることが困難。情報量が少ない方が深く対象に向き合えることは、ハイパーリンクの沢山ついた文章とついていない文章を被験者に読ませた後、その内容について正確に記憶しているか、内容を理解しているかを確かめる質問をする実験でも示されている。つまりハイパーリンクは一見分かり易さを増すように思われる、だが、実際には文章を深く読むには注意散漫になり、逆に理解の障害になっているという実験結果が得られている。

 このようにデジタル機器の活用は、生徒の興味をひく半面、思 考の省略に繋がってしまう面も否定できない。

◉ デジタル教科書、デジタル機器にどう向き合うか

 2010年、情報処理学会、日本数学会、日本物理学会など8つの学会が連名で、デジタル教科書の導入に関して9つの要望を提出している。

事項 1  「デジタル教科書」の導入が、手を動かして実験や観察を行う時間の縮減につながらないこと。

事項 2  「デジタル教科書」において、虚構の映像を視聴させることのみで科学的事項の学習とすることが無いこと。

事項 3  「デジタル教科書」の使用が、児童・生徒が紙と筆記用具を使って考えながら作図や計算を進める活動の縮減につながらないこと。

事項 4  「デジタル教科書」の使用が、児童・生徒が自らの手と頭を働かせて授業内容を記録し整理する活動の縮減につながらないこと。

事項 5  「デジタル教科書」の使用が、穴埋め形式や選択肢形式の問題による演習の比率増大につながらないこと。

事項 6  「デジタル教科書」の使用が、児童・生徒どうしが直接的に考えや意見を交換しながら進める学習活動の縮減につながらないこと。

事項 7  「デジタル教科書」の使用により、授業の「プレゼンテーション化」や、児童・生徒に対するプレゼンテーション偏重・文章力軽視意識の

     植え付けが起きないようにすること。

事項 8  「デジタル教科書」の導入に際して、教員の教科指導能力が軽視されることがないように、また教材研究がより充実するように配慮する

     こと。

事項 9  「デジタル教科書」の導入に際しては、少なくとも当面の間は、現行の紙の教科書を併用し、評価や採択においては紙の教科書を基準とする

     こと。

 

 10年前の要望ですが、デジタル機器が思考を省略してしまうことへの懸念がよく分かる内容だ。

 電子黒板、デジタル教科書といったデジタル機器の活用は、少なくとも、上述した9つの事項に留意して行う必要があると思う。

 子供たちにデジタル機器を活用できるようにしたい、プログラミングも教えたい、英語も教えたい、という政府の方針も分かるが、本当に必要な学力は極小化した情報に直線的に注意を集中させる深い思考力を身にうけることではないか。そのためには従来通りの黒板を使った授業を行い、子供たちに紙に印刷された教科書を読ませ、子供たちに文章を書かせ、要旨をまとめさせるといった根気強い取り組みをしっかりやってゆく必要があるのではないかと思います。そして何よりも読解力と論理能力を身に付けることに注力すべきだと思います。    

« デジタル教科書は万能か? ④ | トップページ | Clinical 地域連携医療のための歯科医師に必要な栄養学 ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事