内の目外の目 第209回 粧うから口腔ケアを考える ②
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◉ オーラルフレイル予防として口の外からアプローチ
2015年から日本歯科医師会は、「オーラルフレイル」を国民運動として、その考え方を広く普及啓発している。しかしながら、オーラルフレイルは「口のささいな衰え」と言われているように、徐々に衰えが進行するため、高齢者自身がその変化に気づきにくいという問題がある。オーラルフレイル対策の第一歩は、高齢者の口腔リテラシー(口へ関心)の向上が課題なのだ。
解決策として要介護高齢者あるいは、認知症患者の口腔ケアに対する拒否反応を和らげていく脱感作が参考になる。具体的には、はじめにリラックスできる環境を作り、爪、指、腕などの口より遠い部分から接触を開始し緊張をほぐし、徐々に口に近づき、最終的に口腔内のケアにつなげていく方法。化粧療法はこれらのステップを、化粧品を使って楽しみながら実施できる。化粧品の香りでリラックスし、ハンドマッサージやネイルケアを通じて手指へアプローチする。
次に、化粧水やフェイスクリームを使って顔全体にアプローチし、最後にポイントメイクで顔の各部位(眉、頬、口唇)へアプローチしていく。これらの行為を段階的に実施していくことで、口に対する意識を高めることができる。特に口紅は化粧品の中でも最も人気のあるアイテムで、口への関心を高めるツールとしては最適だ。
ここで、歯科医院の導入事例を紹介する。北海道妹背牛町(人口2938人、高齢化率46.6%、2019年1月時点)の定岡歯科医院では、地元自治体の介護予防に関する委託事業の一環として、2017年から年3回、化粧療法を用いた口腔ケア教室を開催している。教室では、化粧療法を学んだ歯科衛生士が唾液腺マッサージのやり方を、スキンケアの動きを使って伝えている。高齢期にメイクをやめる人が増えるが、スキンケアは年齢にかかわらず比較的継続される行為であるため、参加者も取り組みやすく、継続しやすい。まずは口を含めた顔への関心を高める取り組みとして有効だ。また、グループで実施するため、外出機会の創出や社交性の維持といった面でも社会的フレイルの予防につながっている。
歯科従事者(歯科衛生士)は、次のポイントを意識して化粧療法を実施すると、周囲にも理解が得られやすく、参加住民にも違和感なく受け入れられる。
◆化粧を目的としてしてではなく口腔ケアを伝える手段として位置づけ、口の健康維持を目的とする。
◆他者にしてもらうのではなく、自立支援のもと残存機能を活かながら、高齢者本人による化粧・整容動作を促す。
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