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2020年6月14日 (日)

Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ⑤

続き:

 

6. 歯科に用いる適正な抗菌薬とは?

 

 WHOでは毎年 AMR 対策の一環として、公衆衛生学的なニーズに乗っ取って、優先順位付けされた医薬品のリストである Essential Medical List (EML) を発表している。この EML は基本的なヘルスケアシステムに必要最小限で、最も効果的かつ安全で、費用対効果があると考えられる医薬品が薬効カテゴリー別、さらにアルファベット順にリストされている。なお、抗菌薬は以下のように、Access,Watch,Reserve (A WaRe) の 3 段階に分類されている。

 Access:より一般的な感染症様の症候群に対して、第一もしくは第二選択肢となる抗菌薬

 Watch:耐性のリスクが比較的高く、AMSのターゲットとして優先、限られた特定感染症に不可欠な第一または第二選択薬として経験的治療オプションとして用いられるべき抗菌薬

 Reserve:多剤耐性菌による感染または感染が疑われる場合のみに”最終手段”として用いられる抗菌薬

     表(略)には2019年に発表された EML の抗菌薬リストから、我が国で歯科適応のある主な経口抗菌薬を A WaRe 分類に当てはめたもの。

 抗菌薬の第一もしくは第二選択となる Access には、β-ラクタム系抗菌薬のペニシリンである AMPC や ABPC 、あるいは第一世代のセファロスポリン系抗菌薬である CEX などがリストされている。β-ラクタム系抗菌薬は細菌の細胞壁の合成を阻害して殺菌的に作用し、口腔連鎖球菌などへの高い抗菌活性を示すとともに、嫌気性の Prevotella 属にも感受性を示す。特にAMPC は bioavailability (投与された薬物がどれだけ全身循環血中に到達し、作用するかの指標:生物学的利用能)が高く、腸管からの血中移行は80%以上で良好な組織移行性を持ち、近年再び、歯科領域において使用量が増加している(ABPC は bioavailability が低い)。

 ただし、β-ラクタム系抗菌薬のβ-ラクタム環を分解する酵素を出す ESBL 産生菌がペニシリン耐性菌として増加している。嫌気性菌である prevotella 属の35%程度がこの ESBL を産生するため、AMPC にβ-ラクタマーゼ合成阻害作用を有するクラブラン酸が配合されているクラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物 (CVA/AMPC)が Access にリストされ、我が国での歯科適応もある。なお、β-ラクタム系抗菌薬にアレルギー(いわゆるペニシリンアレルギー)がある場合は、AMPC の代替薬としてリンコマイシン系の CLDM が推進され、Access に分類されている。

 一方、同じβ-ラクタム系ではあるが、セファロスポリン系、特に第三世代の CFPN-PI などは腸から血中への吸収が10~30%と低く、大部分が便とともに排泄される。従って、A WaRe 分類でも、局所への組織移行が少ないので、AMPC 比べて biovailability が低い。さらに、近年では第三世代のセファロスポリン系抗菌薬の多剤耐性菌も増加している。

 そのため、我が国での使用頻度の高い第三世代のセファロスポリン系も含めマクロライド系やニューキノロン系などの抗菌薬が Watch にクラス分けされている。なお、Reserve の FRPM は多剤耐性菌によって生じた感染症治療に用いるべき抗菌薬であり、感染予防に用いるのはできるだけ避けなければならない。

 

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