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2020年6月13日 (土)

Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ④

続き:

 

3. 我が国の抗菌薬の使用状況

 

 AMSの目的は、抗菌薬使用の適応を判断し、治療選択、使用量、使用期間等を明確に評価して、抗菌薬が投与される患者のアウトカム(成果)を改善し、有害事象を最小限にすることである。一方、抗菌薬が適正に使用されていない状況は「不必要使用」と「不適正使用」に分けられちる。前者は抗菌薬が必要でない病態において使用される状態で、後者は抗菌薬が投与されるべき病態であるが、その状況における抗菌薬の選択、使用量、使用期間が標準的な治療から逸脱した状態のこと。

 では、我が国ではどのような抗菌薬が、どれくらい使用されているのだろうか。処方販売量を基にした研究において、人口千人当たりの抗菌薬の1日使用量は 15.8 DDD (Defined Daily Dose : 成人患者においてその薬剤が主な適応として使用される時の平均的な投与量)と試算され、そのうち 92.4%が経口抗菌薬と報告されている。

 また、諸外国と比較すると、経口の第三世代セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬の使用量が特に多い(経口抗菌薬全体の2/3以上)ことも指摘されている。このような背景から、我が国のAMR対策アクションプランでは経口のセファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系の抗菌薬を2013年比で50%も削減するよう求められたのである。

 さらに、経口抗菌薬だけの使用量は、クラリスロマイシン(CML: クラリスなど)が25%、セフカペンピボキシル塩酸塩(CFPN-PI:フロモックスなど)とレボフロキサシン水和物(LVFX:クラビットなど)がそれぞれ11%、セフジトレンピボキシル(CDTR-PI:メイアクト MS など)が9%、そしてアモキシシリン(AMPC:サワシリンなど)は7%であった。

 一方、2015年での我が国の抗菌薬の使用量を諸外国と比較すると、韓国、米国、ドイツよりも低く、スウェーデンやオランダよりも高かった。また、米国では少なくとも30%程度は抗菌薬が不適正に使用されているとの報告もあるが、我が国の医療現場では、その頻度や割合はまだ把握できていないのが現状だ。しかし、少なくとも我が国での経口抗菌薬の使用量には片寄りがあるので、AMRを減少させていくには抗菌薬の処方をあらためて見直す必要がある。

 

4. AMR 対策の実際とその成果 

 

 抗菌薬の不必要な処方を減らすことは、薬剤耐性菌の出現を抑える効果があるだけでなく、医療費抑制効果もある。そこで、厚労省の健康局結核感染症課は2017年6月に『抗微生物薬適正使用の手引き 第一版』を、2019年12月には『同 第二版』発行。この手引きは、我が国の外来診療で不必要に経口抗菌薬が処方されていることが多いと考えられる急性気道感染症と急性下痢症に焦点を当て、エビデンスに基づいた診断および治療手順のアルゴリズムやチェックシートなどが記載されている。さらに、患者向けに抗菌薬が不必要な理由の説明例なども記載されている(表 後で)。

 また、最近ではAMR対策の具体的な成果も示されてきている。例えば、診療所外来において細菌性感染とウイルス性感染を見分ける簡易検査(グラム染色)を導入したことで、広域抗菌薬の使用が1/3以下に減少し、患者1人当たりの抗菌薬の消費額もおよそ1/5となり、小児副鼻腔炎患者における抗菌薬不使用患者数が9倍増加、また、大学病院での AMR 対策プログラム導入により年間約3億円の支出が減少している。

 なお、2017年の抗菌薬全体の販売量を2013年と比較する(表 後で)と、抗菌薬全体としては7.3%減少していたが、2020年の目標値とはまだ隔たりが認められる。さらに、経口のセファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライド系抗菌薬の販売量はそれぞれ 12.2%、9.1%、13.5%といずれも減少していたが、これらの 2020年の目標値はすべて50%減であるので、更なる減少することが求められる。一方、注射用抗菌薬の目標値は20%減であるが、9.3%増加していた。

 

5. 目的に応じた抗菌薬の選択と投与方法

 

 日常臨床で歯科医師が抗菌薬を処方する機会は決して少なくない。その目的は抜歯をはじめとする口腔外科処置や歯周外科処置、インプラント埋入等における手術部位感染 (Surgical site infection:SSI)の予防と、歯冠周囲炎、歯周組織炎、顎炎あるいはインプラント周囲炎を含めた歯性感染症治療の 2つ。つまり、感染に対する「予防的投与」と「治療的投与」という異なった目的である。それにもかかわらず、いつも同じ抗菌薬を、同じように処方してはいないだろうか?

 歯科における AMR 対策として、AMR を正しく実践していくためには、SSI の予防と歯性感染症の治療をしっかり区別して、抗菌薬投与の必要性、適切な抗菌薬の選択と投与量・投与期間を決定していかなければならない。

 

 

 

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