« Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ① | トップページ | Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ③ »

2020年6月11日 (木)

Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ②

続き:

 

1. 抗菌薬と耐性菌の変遷 

 

 1928年に英国の医師アレクサンダー・フレミング博士によって発見された世界初の抗菌薬であるペニシリンは、1942年にベンジルペニシリン(ペニシリンG)が単離され、翌年には市販。これにより感染症による死亡者数が激減した。しかし、既にペニシリンを無毒(無力)化するペニシリナーゼが発見され、ペニシリンの使用量増加とともにペニシリン耐性株も出現。

 このペニシリン耐性株に有効なメチシリンが1960年に開発されたが、翌年にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が英国ではじめて報告され、1967年にはペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)も出現。1972年に MRSA に効果を現わすバンコマイシンが販売されたが、70年代後半以降、世界各地で MRSA による院内感染が増加していき、院内感染症の代表的な起炎菌となり、我が国でも80年代後半に MRSA が医療現場で深刻な問題となった。また、1983年にはペニシリン耐性菌の基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌が出現、1986年にはバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が英国で出現。

 その後も1990年代には多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)など、2000年以降もバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)などの様々な薬剤耐性菌が院内感染、さらには市中感染として世界中に拡がっていった。なお、我が国では MRSA や PRSP などのグラム陽性菌の薬剤耐性が諸外国に比べ高いことが特徴だ。

 その一方で、1980年代以降は新たな抗菌薬の開発が急激に減少し、薬剤耐性菌による死亡者数が増加の一途を辿り、抗菌薬は薬剤耐性菌の出現に追いつけない状態となっている。既に米国では年間3.5万人、欧州でも3.3万人が AMR 関連で死亡していると推定されている。我が国でも、2019年12月に薬剤耐性菌による推計死亡者数が国立国際医療研究センターから発表され、MRSA とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)に起因する菌血症で年間約8000人が死亡していることが明らかになった。また、MRSA 菌血症は減少、FQREC 菌血症は増加傾向にあることも判明した。

« Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ① | トップページ | Clinical ~手術部位感染の予防と歯性感染症の治療~ ③ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事