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2020年6月29日 (月)

人間と科学 第313回 体と心の5億年(3)—チャールズ・ダーウィン『ビーグル号航海記』を読む ③

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 ここに進化論の萌芽がある。いや、ダーウィンはガラパゴス諸島に滞在中に進化論のアイデアを得たというから、つまりここに、”進化論誕生”の現場が生々しく報告されている。

 ダーウィンの思考法には「時間」という観点がキーで、それは生物の進化論以外にもみられる。たとえば、サンゴ礁の生成についての理論だ。熱帯の海のサンゴ礁には、環礁(アトール)、堡礁(バリアリーフ)、裾礁(フリンジングリーフ)という3つのタイプがあって、海の中に円形にサンゴが頭を出している地形、またその真ん中に小さな島がある地形などある。ダーウィンはインド洋の島で、そういう光景を目撃し、それら3つのタイプを、形成された「時間順」にそって並べ直し、サンゴ礁の形成についての論を立てた。

 つまり、それら3タイプサンゴ礁は、サンゴ礁形成の3つの段階を示しているというのだ。進化論でもそうだが、ダーウィンは、目の前にある多様な世界に、生成の時間軸を与えることで、自然を解釈する理論を立てた。

 『ビーグル号航海記』を読むと、ダーウィンがこの旅で、爬虫類、両生類、魚類、昆虫それに鳥類まで、いかにたくさんの生物を見、そしていかに豊富な博物学的な知識があったかを知ることができる。進化論というのは、そういう具体的な詳細な知識がベースにあって、はじめて、展開されたものなのだ。それを”進化”という時間軸に並べた。つまり、進化論というのは、単なる抽象的な思想ではなく、膨大な具体的なデータを基盤にした世界解釈のありようなのだ。

 著者(布施)は、35歳の時、勤めていた医学部の解剖学教室を辞めてフリーになったのだが、それで自由な時間が得られ、この機会に自分にとって「いちばん大切な軸」を得ようと旅した先が、実はガラパゴス諸島だった。海辺の溶岩に群れるイグアナなどを見て、ダーウィンのことを思ったりもしたものだ。『ビーグル号航海記』のページをめくりながら、その自分の旅の感触を懐かしんだりもした。

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