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2020年7月19日 (日)

ウィルスの目線からの考察 ⑧

続き:

 パンデミックは社会変革の先駆けとなる その<2>

 ペスト流行以前のヨーロッパにおいて、ハンセン病は一貫して重要な病気であった。ハンセン病療養所(レプロサリウム)が各地に建設された。13c.頃、ヨーロッパには2万近い数のレプロサリウムが存在した。にもかかわらず、14c.に入ると、ヨーロッパで新たなレプロサリウムが建設されることはなくなった。致死率の高いペストのため、多くの患者が亡くなったことは確かであろう。しかしそのために、ハンセン病患者の発生数が急激に減少したとは考え難い。しかし事実をいえば、1348年のペスト流行以降、ハンセン病患者数が流行以前の水準に達することはなかった。理由は未だにわからない。

 コロンブス以降の16c.南北アメリカでも感染症は社会を大きく変えた。天然痘や麻疹といった、新大陸にはなく、旧大陸にのみ在った感染症の広範かつ急激な流行の後に出現した社会は、それまでの現地人々が暮らしてきた社会とは異なる、スペイン中心とする別世界となった。歴史学者のウィリアム・マクニールは以下のように述べている。

 「聖なる理法も自然の秩序も、はっきりと原住民の伝統と信仰を非としている以上、抵抗ということにどんな根拠が残っていたといういうのか。スペインの征服事業が異常なほどの容易さだったこと、またわずか数百人の男が広大な地域と数百万の人間をがっちりと支配し得た事実は、このように考えてきて初めて理解できる」(『疾病と世界史』ウイリアム・H・マクニール著、佐々木昭夫訳 中公文庫(下))

 パンデミック後に時として出現する新たな社会は、独立した事象として現れるわけではなく、歴史の流れのなかで起こる変化を加速するかたちで表出する。14c.のペスト流行の時も、16c.南北アメリカでの感染症流行の時もそうだった。さらにいえば、1918年のスペイン風邪もそうだったと思う。流行後の世界は、新興国アメリカの世界史の舞台における台頭だった。アメリカは、その後、世界の政治や経済の中心となっていく。

 新型コロナウィルス感染症の流行が今後どのような軌跡をとることになるのか、現時点で正確に予測することはできない。ただ流行が拡大し、遷延すれば、あるいは新型コロナウィルス感染症とは異なるが致死率の高い感染症が今後流行すれば、私たちは、私たちが知る世界とは異なる世界の出現を目撃することになるだろう。それはどのような社会かはもちろんわからない。

 しかしそれは、14c.ヨーロッパのペスト流行時のように、旧秩序(アンシャンレジーム)に変革を迫るものになるかもしれない。そうした変化は、流行が終息した後でさえ、続く。後から振り返れば、世界の秩序の変換点だったということになったとしても不思議はない。

 繰り返しになるが、感染症は社会のあり方がその様相を規定し、流行した感染症は時に社会変革の先駆けとなる。そうした意味で、感染症の汎世界的流行はきわめて社会的なものとなる。その時代、時代を反映したものとして、という意味であるが……。

 歴史が示す一つの教訓かも。

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