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2020年7月 8日 (水)

アムネスティ通信より――思考を操る危険な言葉遣い

雑誌「世界 5」よりコピーペー:

 オーウェルのディストピア小説『1984』で主人公は、映画で観た難民船爆破シーンについて日記はこう記す。「観客は太った巨漢の男のシーンに沸いた。男はヘリの追跡を逃れるように泳ぎ、溺れそうになっている。次に照準器越しに男が映る。そして男は穴だらけになり、沈んでいった。…観客は大きな笑い声を上げた」

 今年3月初旬、ギリシャの沿岸警備隊が難民ボートの近くに銃を撃ち込む様子をとらえた動画が、インターネットで流れた。ボートを転覆させようとしているようだった。

 事件はトルコ沖で起きたと伝えられている。その数日前、トルコのエルドアン大統領は、2016年来閉ざしてきた欧州との国境開放を表明。国境には大勢が押し寄せたが、欧州側のギリシャには、催涙弾やゴム弾を装備した国境警備隊が待ち受けていた。ギリシャ政府は難民認定申請の受付を停止し、非正規入国者はすべて強制送還すると発表した。小説の中の観客同様、問題の動画を大いに楽しんだ人たちがいた。差別発言で有名なコラムニストは、「ギリシャの沿岸警備隊やるね。ギリシャの人たちしっかりして。侵略に怒りの声を」といったコメントをつけ動画をツイート。「侵略」の単語は、ギリシャが「殺到」する移民の「群れ」に「包囲」される様を報じる世界各地のニュースの見出しを飾った。ギリシャ政府の報道官も軍事的アナロジーを利用、我が国は安全保障上の「非対称的な脅威」にさらされているとコメントし、エーゲ海の島々への対地攻撃機投入を発表した。

 今や「侵略」という言葉は、世界中のポピュリスト政治家のお気に入りだ。彼らは権力獲得・維持のために外国人嫌悪や物騒な国粋主義を掲げ、その体現として、壁やフェンスを築いている。こうした言葉遣いは、難民、移民に烙印を押すものであり、人種差別や外国人嫌悪・排斥を正当化する。極めて危険なものだ。

 動画の事件と同じ日、レスボス島沖でボートが転覆しシリア難民の少年が溺死した。島民の一部は難民ボートの接岸を阻止、医者や救援活動者らは自警団に襲われた。

 ギリシャでの事態は、欧州の難民保護体制の破綻を示すものだが、欧州首脳陣は責任分担の義務に向き合わず、入口国のイタリア、ギリシャ、マルタに押し付けている。そしてポピュリストたちがつけ入る隙を与えている。

 『1984』の刊行から70年。大規模監視や言語による思考統制など、オーウェルが描いた恐ろしい世界は、現実のものとなりつつある。偏見を武器に恐怖をあおるポピュリストたちが席捲する世界を、私たちは望むのだろうか。

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