Clinical 「低ホスファターゼ症」という病気とは? ③
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3. HPPへの歯科的対応
乳歯の早期脱落に対しては、現時点では歯の脱落を防止する根本療法はなく、歯周状態を良好に保つために保護者への口腔衛生指導を行うとともに、定期的な歯周状態の管理を行うことぐらいしかできない。そして、乳歯が脱落してしまった症例に対しては、小児義歯のセットを推奨する。
HPP症例に対する小児義歯のセットは、平成22年度より保険適用である。乳歯列期は、咀嚼機能や発音機能を獲得する重要な時期で、乳歯を早期に喪失すると、審美性のみならず、これらの機能に影響を及ぼす。さらに、異常嚥下癖につながる場合もあり、放置することで開咬などの歯列咬合異常を誘発。そこで、印象採得が可能になる3歳過ぎにはできる限り早い時期のセットを目指している。クラスプはワイヤークラスプを選択、乳前歯部を避けて比較的歯周組織が強い乳臼歯部にセットしている。
義歯を初めて使用する症例では、乳犬歯にクラスプをセットすることもあるが、義歯に慣れて安定した際には、側方の成長を妨げないように切断している。近年、国内で乳歯の人工歯を入手することができないために、残存する人工歯の形態を参考にして、即時重合レジンで作製している。義歯は成長に応じて不適合になるのは避けがたく、その度に調整、再製を行うことを続けていかなければならない。
最近になって、症例によってはマウスガードのセットを推奨している。一般的に、萌出時の幼若永久歯は歯根が未完成で外力による影響を受けやすい。小学校低学年などの前歯部交換期の外傷を予防するため、コンタクトスポーツや体育の授業時などに気にせずにスポーツに集中できると好評だ。
HPP症例では、顎骨の形成不全や乳歯の早期喪失による永久歯の萌出スペースの不足から、矯正治療が必要となる症例に遭遇することが多い。HPP症例において矯正治療を行う場合には、セメント質形成不全に起因し、歯と歯槽骨の接着が弱いことに十分配慮しなければならないと考えられる。そのため、歯への負担が少ない手法が望ましい、しかし、HPP症例で矯正治療を行ったという報告は現時点ではない。当院では、小児歯科医による歯周状態の管理ができる状況下で、矯正歯科医に歯列に対する処置を依頼している、HPP症例に対する標準的な矯正治療法の構築を模索しているところである。
4. 歯科症状が HPP 診断のきっかけに
重症型のHPP症例の場合には、出生前もしくは出生直後に医科領域でHPPと診断され、フォローが開始。そして、乳歯の萌出が開始した頃に歯科に紹介され、歯科的フォローが始まる。しかし、小児型や歯限局型といった軽症型の場合、全身の症状が日常生活に影響がない程度であったり、自覚症状が全くないことで、HPP診断に至らない潜在的な症例が多く存在することが分かってきた。
HPPは進行性の疾患であり、乳歯早期脱落のみを認める歯限局型であっても、成長とともに運動機能の低下や骨の痛みなどが出現して、小児型や成人型へと移行することがある。また、成人型と診断されたHPP症例では、既往症に乳歯早期脱落を認めることが多い。成人型のHPP症例は骨粗鬆症と誤診されてしまうことがあり、HPPの症状を悪化させるビスホスホネートの投与を受けてしまったという報告もある。
これらのことから、HPPの疑い症例を歯科領域で早期発見して、医科での早期診断につなげ、成長発育の管理や適切なタイミングで治療を受けられる環境にしておくことが重要。日常臨床で遭遇する可能性は低いかもしれないが、我々歯科医がHPPについて理解を深めることによって、救われる子どもが確実に存在しているのだ。
乳歯早期脱落を認める症例に遭遇した場合(表 HPPを疑う所見→参考にする 後)、HPPが疑わしい場合は、骨系統疾患を専門にしている小児科医への紹介が重要。特に、脱落した乳歯の歯根の状態は、非常に重要な手がかりとなるので、脱落歯症例に遭遇した場合、保護者に脱落乳歯を持参していただくとよい。また、歯科から発見されるHPPは軽症型であるが、その中でもすでに身体症状を認める症例では成長発育に問題を持っていることが多い。母子手帳の成長発育曲線を参考にして推測することも可能だ。
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