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2020年7月 6日 (月)

Clinical 「低ホスファターゼ症」という病気とは? ④

続き:

5. HPP早期発見における課題

 HPPは極めて低い頻度の疾患であることから、乳歯の早期脱落を呈する症例に遭遇しても、歯科医がHPPを疑うに至らないことが多い。特に、保護者の「外傷で歯が抜けた」というコメントが、HPPへの気づきの妨げとなることが多くある。一方で、歯科医側が疑い症例として小児科医に精査を依頼しても、骨の病気を専門としていない小児科医では、希少疾患であるHPPが念頭に置かれていないという現状もある。さらに、ALP値は一般的な血液検査項目に含まれているにもかかわらず、小児の基準値は成人と異なりかなり高いことから、検査データにおいて低い数字が表示されても、それが異常値として認識されない現状にある。

 なお、2020年4月より準備が整った施設から、測定方法がこれまでの日本臨床化学界(JSCC)の方法から国際臨床化学連合(IFCC)の方法に変わっている。IFCC法はJSCC法に比べて、測定値が約1/3になることから、今後は低値が認識されやすくなるのではないかと期待している。

 以下に、これまで我々(筆者ら)経験したHPP発見までに時間を要した3症例について。

 

症例 1 小児型HPP(初診時6歳4か月、女児)

 8か月時に、他人の手が顔に当たり、萌出直後の下顎左側乳中切歯が脱落した。それ以来、動揺を認めていた下顎右側乳中切歯が10か月で脱落。大学病院小児歯科を受診したが、外傷による脱落との説明を受けた。その後、6歳時に乳前歯の動揺に気付き、地域の歯科医院を受診したところ、当科受診を勧められた。それまでに低身長のため小児科を受診しており、当科に持参された4歳時の血液検査データを見ると、血清ALP値は低値であったものの、認識はされていなかった。口腔内診査をすると、乳前歯部の動揺や全顎的に深い歯周ポケットを認めたため、本学医学部附属病院小児科を紹介し、血清ALP値が低値であること、骨幹端に若干の不整が認められたことから、小児型HPPの診断とした。

 本症例においてHPPの診断が遅れた原因として、外傷による脱落とHPPにおける早期脱落の鑑別が難しいことが挙げられる。HPPでは、脆弱な歯周組織のため、わずかな外力をきっかけにして動揺が開始して脱落に至る。また、幼児期は歩行を開始し、外傷の好発年齢でもある。さらに、血清ALP値の基準値が成人と小児では大きく異なるために、成人の基準値しか認識がなかったことも診断の遅れにつながった。

 

症例 2 小児型HPP(初診時1歳7か月、男児)

  1歳7か月に転倒し、下顎両側乳中切歯が脱落した。かかりつけ歯科医より当科を紹介され受診に至った。脱落乳歯の歯根は吸収されておらず、隣在歯の動揺を認めた。低身長と体重増加不良を認める。しかし、小児科医のフォローは受けていない。本学医学部付属小児科を紹介、血清ALP値が低値で、骨の石灰化不全が認められたことから、小児型HPPの診断に、直ちに酵素補充療法が開始された。全身症状を認めていたにもかかわらず、歯科症状がHPPの診断のきっかけとなった。

 本症例では、成長発育不良が行政の健康診断において経過観察とされたため、小児科受診につながった。今後は、この症例のように歯科所見をもとに歯科医からHPPをスクリーニングできるように、乳幼児歯科健診における診査項目への追加を期待したい。

 

症例 3 歯限局型HPP(初診時2歳8か月、男児)

 2歳時に下顎乳中切歯の動揺を認め、かかりつけ歯科医を受診するものの、外傷に起因する可能性が高いということで経過観察となった。その直後に下顎左側乳中切歯、半年後に下顎右側乳中切歯が脱落。母親が自分で調べ、「低ホスファターゼ症」という病気を知り、病気について書かれたパンフレットを持参し、再度歯科医院を受診するも、経過観察だった。

 その後、血液検査で診断できるとの情報を得て、かかりつけ小児科に血液検査を依頼した。一度は、成人の標準値をもとにALP値は正常値で、HPPではないと診断された。しかし、母親がパンフレットに書かれていた成人と小児の基準値の違うことを説明して、検査結果を見直してもらい低値であることが判明した。そして基幹病院小児科紹介となり、最初の歯科医院受診から10か月後に歯限局型HPPと診断された。

 この症例においてHPPの診断が遅れた理由として、医療従事者におけるHPPの認知の低さとALPの標準値に関する知識不足が挙げられる。今後、ALPの標準値に関して、子どもと成人の違いなどに関する啓発が必要である。

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