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2020年7月24日 (金)

人間と科学 第314回 体と心の5億年(4)―レオナルド・ダ・ヴィンチの「絵画の科学」 ③

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 さて、ダ・ヴィンチの「絵画の科学」について、<<最後の晩餐>>を例に、その説明をしてみたい。まずは解剖学の話だが、人の前腕に回内・回外の動きがある。子どもが『キラキラ星』を歌いながら、掌を前に後ろに手首を動かすあの動きだが、親指が内側にある時を「回内」、外側にあるのを「回外」という。これは前腕の尺骨と橈骨という二本の平行した骨が、回内のときにX状に交差することでできる動きだ。

 このメカニズムを明らかにしたのは、私(布施)の知る限り、レオナルド・ダ・ヴィンチが最初。2019年の夏の、ロンドンのクイーンズ・ギャラリーの展示でも、それを描いた骨格の図が展示されていた。

 そこで<<最後の晩餐>>の話になる。ここには13人の人物が描かれている。中央のキリストと、その右に6人、左に6人、計12人の弟子たちだ。この絵は、キリストが弟子の一人に裏切られ、明日、磔刑になると告白し、弟子たちの間に動揺が広がった瞬間を描いたものだ。

 かって、この<<最後の晩餐>>を見た詩人のゲーテは、その腕のポーズの多様な表現に感嘆し、また北のドイツと違って、南のイタリア人は陽気で動作も大袈裟だが、そういうイタリア人気質が描かれていると称賛している。たしかに、<<最後の晩餐>>に描かれている人物のポーズは、人間がこれだけいろいろなポーズをするのか、と思われるほどに多彩だ。

 他方、先に説明した、腕の回内・回外に注目すると、なんとキリストの右にいる弟子たちのすべての腕は回内で、逆に左の弟子たち腕は、すべてが回外という驚くべき描き方がされている。さらに、キリストの腕を見ると、右腕は回内、左腕は回外で、まるで指揮者か演出家が「はい、回内!」と指示して、右の人物は回内に、左の人物は回外になったかのようでもある。

 つまり、<<最後の晩餐>>には、驚嘆すべき「多様性」と、おそろしいまでにシンプルな「統一性」がある。優れた芸術作品というのはすべて、そういう多様性と統一性が同時にあるものだが、この絵もそうなのだ。

 ここに、科学(=解剖学)と芸術の驚くべき融合の達成がある。

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