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2020年7月12日 (日)

ウィルスの目線からの考察 ②

続き:

 外出を控え、自粛をするもう一つの意味

 流行速度を遅くするということは、医療崩壊を防ぐと同時に、病原体の進化といった側面からも大きな意味がある。流行速度を遅くすることで、ウィルスを「弱毒化」に向かわせることができるからだ。

 ウィルスは、自分だけでは生きることができない。生物か否かの議論は別にしても、ウィルスは少なくともその複製に宿主を必要とする。そして、複製の過程で変異し、さまざまな種類のウィルスを作り出す。なかに弱毒のものもあれば、強毒のものもある。どのウィルスが支配的になるかは確率論の世界の話になるが、穏やかな流行速度は弱毒化への淘汰圧として働く。

 例えば増殖の過程で、弱毒と強毒の二つのウィルスが出現したとして、流行速度が緩やかだと、強毒ウィルスは、次の宿主に感染する前に宿主である人間を殺してしまい、自らを残すことができない。一方、弱毒ウィルスは宿主を殺すことなく、宿主と長く共存し、次の宿主へと感染していく。結果、流行速度が緩やかな状況下では弱毒ウィルスが優勢となる。

 第一次世界大戦末期に流行し世界中で5000万人とも1億人ともいわれる被害を出したスペイン風邪は、第一波よりその翌年に起きた第二波での被害の方が大きかった。スペイン風邪が流行を始めた1918年は、第一次世界大戦末期で、アメリカがヨーロッパ戦線への参戦を決めた年だった。若い兵士たちは船で大西洋を渡り、西部戦線へと向かった。船は混み合い、前線では兵舎や塹壕で、多くの兵士が密集した。それがウィルスの拡大に格好の土壌を提供した。一方、世界的に見れば、第一次世界大戦は、人や物資を、植民地を巻き込んで動員した、まさに初めての世界規模の大戦であった。

 増大する物流や、動員を含めたヒトの移動が流行拡大を、それまでにない速さで加速した。その速い拡大速度が病原性を高め、高い致死率をもたらした可能性は高い。

 ウィルス自身が意思を持って、弱毒化するとか強毒化するということはない。しかし、流行の速度は、どちらかのウィルスを選択するかということに対して、淘汰圧という進化の駆動力を通して大きな影響を与える。

 新型コロナウィルスに関して、感染力や毒性がどれほどのものかは、現時点では未だ評価が定まっていない。だとしても、流行の速度を遅くすることで、私たちは、弱毒ウィルスの選択確率を高めることはできる。そしてそれは、ウィルスとの穏やかな共存状態への移行を可能にする一筋の道ともなる。そこに、外出を控え自粛するもう一つの意味がある。

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