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2020年7月 3日 (金)

Clinical 「低ホスファターゼ症」という病気とは? ①

大川玲奈(大阪大学歯学部附属病院小児歯科講師、外来医長)さん及び仲野和彦(大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室教授、同副研究科長)さんの共同研究文を載せる。:コピーペー

はじめに

 骨系統疾患は、骨や軟骨などの骨格形成に関係する組織の成長、発達、分化の障害により骨格の異常をきたす疾患の総称。最新の分類では461疾患が報告されているものの、個々の疾患の頻度が低いことから、歯科の日常臨床で遭遇する機会は少なく認知度が低い。しかし、骨系統疾患の一つである低ホスファターゼ症(Hypophostasia:HPP)は歯科症状がきっかけで診断に至ることがある。そのため、歯科医師がHPPについて十分に理解し、HPPを疑う歯科症状に遭遇した場合、見逃すことなく速やかに医科受診に導く必要がある。また、スムーズな診断につなげるための医科歯科連携体制をあらかじめ確立しておくことが重要である。

 ここでは、HPPがどのような疾患であるか、そしてその歯科症状と対応方法、医科歯科連携の重要性について解説する。

1. 低ホスファターゼ症(HPP)とは

 HPPはALPL遺伝子変異による骨の石灰化に必要な酵素であるアルカリホスファターゼ(Alkaline Phosphatase:ALP)の活性低下に起因する遺伝性の疾患である。ALPは骨の無機ピロリン酸を分解してリン酸を産生し、そのリン酸がカルシウムと結合することによって、ハイドロキシアパタイトが形成、骨に蓄積して骨の石灰化が起こる。

 しかし、ALPの活性が低下すると、無機ピロリン酸が分解されず、リン酸が産生されなくなる。その結果、リン酸とカルシウムが結合できず、ハイドロキシアパタイトが形成されず、骨に蓄積することができないために、骨の石灰化障害が起こるとされている。

 HPPの主な症状は、「骨の石灰化障害」と「4歳未満の乳歯の早期脱落」である。これらの主症状の一つ以上を認めた場合に血液検査を行い、血清ALPの定値が認められればHPPを疑い、遺伝子検査を行って確定診断に繋げる。

 HPPは、発症時期と症状によって周産期重症型、周産期良性型、乳児型、小児型、成人型、歯限局型の6病型に分類される(表 後)。

 一般的に、発症時期が早いほど、全身症状は重篤であることが知られており、周産期重症型の症例では治療が行われなければ生存不可能とされ、乳児型の症例では約半数が死亡する。また、診断時には全身症状がなく乳歯の早期脱落しか認めず歯限局型と診断されていた症例でも、成長に伴って骨症状が出現して小児型、成人型へと病型が移行することもある。

 日本における重症型のHPPの頻度は1人/15万人とされており、全国で毎年7人程度の出生と推定されている。一方で、欧州においては、重症型の頻度は1人/30万人程度とされ、軽症型の頻度は重症型の約50倍である1人/6000人程度と考えられている。重症型の症例では常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとることが知られている。この遺伝形式では、一方のALPL遺伝子に変異を持つ保因者となる両親から、両方の変異を受け継いだ場合に子どもが罹患者となる。この場合、両親はHPPの症状を伴わないことが多い。日本人で認められるALPL遺伝子の変異は、c.1559delT(cDNAの1559番目の塩基Tの欠失変異)というタイプが最も多く、この変異を片っ端のALPL遺伝子に有する保因者は、一般集団において480人に1人の頻度で存在する。また、継承型のHPPは、両親のいずれかが一方のALPL遺伝子に変異を持つ常染色体顕性(優性)遺伝形式をとることが多く、一方のALPL遺伝子のみの変異で発症。

 これまでは、重症型における呼吸不全、けいれんなどの症状に対する対症療法にとどまっていた。しかし近年、ALP酵素補充薬(アスホターゼ アルファ:商品名 ストレンジック)が開発、世界に先駆けて2015年8月から日本で製造販売が承認された。

 この酵素補充療法は、家庭において週3回程度、この薬を皮下注射するものであり、重症型の生命予後の大幅な改善に繋がっている。

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