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2020年8月27日 (木)

パンデミックが示した課題 ②

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■ 未来への投資を

 過去に例のない規模の二度にわたる補正予算案をまとめた日本をはじめ、すでに各国ではパンデミックがもたらした経済や社会へのダメージを回復するための巨額の公共投資がなされ始めている。だが、その投資は、もともとあった世界を「復旧」させるものとなってはいけない。コロナ危機以前の世界は、多くの病原体にとって格好の世界であり、気候危機や生物多様性の危機を内在する非持続的な社会や経済であったからだ。今回のパンデミックの背景にある多くの問題を解決しない限り、第二、第三の深刻な動物由来感染のまん延が今後も続くことになる。

 森林やそこの暮らす野生生物のための保護区を拡大すること、野生生物市場の規制強化や閉鎖によって野生生物との接触の機会を減らすことが何より重要。地球温暖化にもつながる肉食、特に牛肉の消費を減らし、植物ベースのタンパク質への転換を図ることも大切だ。

 そして、多大な投資を活用して2015年のパリ協定が求める「脱炭素社会」への歩みを早めることも復興政策の需要な要素である。パンデミックは一瞬とはいえ、原油の価格がマイナスになるという過去に例のない事態をもたらした。石油や石油由来のプラスチックの価格の低下が、再生可能エネルギーや非石油由来プラスチック製品の価格競争力を削いでしまうことへの懸念は小さくない。歴史的な原油安の今こそ、二酸化炭素の排出に課税する炭素税を大幅に増額し、税収を緑の復興(グリーンリカバリー)の財源とするべきだろう。

 4月22日のアースディを記念して世界の環境保護団体が開いたオンラインシンポジウムのテーマは「コロナ禍からのグリーンな復興」だった。

 基調講演した米コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は「科学者の警告があったのに政治家が無視してきたリスクが急拡大し、世界規模の影響をもたらした点は新型コロナ危機も気候危機も同じだ。最も弱い人々が最もひどい目にあうこと、早期に対策に投資をすれば将来の影響を小さくすると示されたことなど、新型コロナの危機と気象危機には多くの共通点がある」と指摘した。

 中米コスタリカの自宅からオンラインで参加した気候変動枠組条約のクリスティアーナ・フィゲレス前事務局長は「気候変動はマラリアやデング熱などを拡大させるだけでなく、気温が高くなり、雨が増えることで新たな病気のまん延をもたらす」と指摘。

 今後に予想される経済復興の投資が10兆~20兆ドルに上がる可能性があることに触れ「この資金を、再生可能エネルギーや循環経済を基礎とした社会形成に振り向ければ、温室効果ガスの排出量を減らし、持続可能な世界の実現につなげられる」と述べた。

 国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー総裁と、国際再生可能エネルギー機関のフランチェスコ・ラカメラ事務局長は、共同通信に寄せた論説の中で「化石燃料産業を支援し、自然との衝突コースへの歩みを加速する短期的な応急処置か、再生可能エネルギーを原動力とした、より強靭な回復という未来への投資をするのか。各国政府は、このパンデミックからの社会的、経済的復興に税金をどう投入するかを決める際、この選択を迫られている」と指摘。「今こそ、一世一代のチャンスだ」と訴えている。

 既に先進的な国は動き始めている。欧州連合(EU)は、環境に配慮した「グリーンな復興」のビジョンを打ち出している。フランス、オーストリア両政府は経営危機に陥った自国の航空会社への支援と引き換えに、短距離路線の廃止などの温暖化対策の強化を要求しているし、カナダ政府も企業に支援する際に、同様の条件を付けている。

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