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2020年8月30日 (日)

コロナ危機は生態系からの警告である ②

続き:

<迫りくる新興感染症の波状攻撃>

 2019年末から全世界を襲っている新型コロナウィルス感染症だけではなく、前世紀から新興感染症が次から次へと生まれ、グローバル化した世界を脅かしている。エボラ出血熱は、1976年にスーダンとザイール(現コンゴ民主共和国)で発見、2014年に西アフリカ諸国で、さらに2018年にコンゴ民主共和国でアウトブレイクして多くの死者を出した。それ以外でも、1989年にベネズエラ出血熱をはじめとする南米出血熱、1998~1999年にかけてコンゴ民主共和国でマールブルグ出血熱、1998~1999年に突如発生したマレーシアの二パウィルス脳炎、2001年にアメリカ合衆国とカナダを襲ったウエストナイル熱、2003年、中国から広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年以降、アラビア半島諸国を中心に発生の報告がある中東呼吸器症候群(MERS)、2015年に南米から中米へと広がったジカ熱、そしてタイプを変えながら毎年のように繰り返し流行するインフルエンザなど、世界を震撼させた新興感染症は枚挙にいとまがない。

 注意すべきは、これら新興感染症は人獣共通感染症あるいは動物由来感染症とよばれるもので、原因となるウィルスは長期間、野生動物と共存してきたことだ。ウィルスは、自分自身だけでは生きていけず、少なくとも複製のために宿主を必要とする。宿主が死ぬと、自らも死ぬ。したがって、宿主が死なないうちに他の宿主に自らのコピーを移す、すなわち感染させなくてはならない。『世界』2020年7月号の山本太郎博士の論説にもあるが、ウィルスは生存戦略上、弱毒化、即ち、宿主にあまり害を与えないように進化する傾向がある。宿主ができるだけ長生きし、元気にどんどん活動し、気がつかないうちにウィルスのコピーを長期間、かつ広範囲にばらまくようにさせるのが、ウィルスの生存戦略である。一方で、宿主ほうでも免疫系の働きで、特定のウィルスの複製を抑えるようになる。このように、ウィルスが宿主になるべく負担をかけずに共存することが、ウィルスと宿主の関係として進化的には安定。

 あるウィルスについて、感染しても発症しないか、ごく軽い症状にとどまるように共進化した宿主を、自然宿主という。このような自然宿主が、ウィルスを生態系のなかに長期にわたって留めさせている。生態系のなかでウィルスを保持する働きがあるという意味で、自然宿主は保有宿主とも呼ばれる。

 さらにもっと長いタイムスケールでみると、現代の分子生物学的な手法を駆使した遺伝子解析によって、人間のゲノムのうちで3~4割はウィルス起源ではないかと言われるようになってきた。遺伝子の垂直伝播、→親か ら子、そして孫へと伝わるやり方とは別に、ウィルスは生物種を超えた感染によって、遺伝子の水平伝播、すなわち血縁関係どころか、生物種やもっと大きな系統群を超えて遺伝子を伝えるベクター(運び屋)の役割を担っているのではないかという点が、この分野のテーマになっている。

 海洋や土壌中に膨大な種類のウィルスの存在も確認されている。いまだ十分に解明されていないことではあるが、このような遺伝子ベクターの働きをもつウィルスの存在こそが、進化の大きな推進力かもしれないと予想されている。

 ただ、そういう長いタイムスケールの進化的問題とは別に、今ここで生きる我々にとって脅威であるのは、本来は別の生物を自然宿主としてもつウィルスに感染することである。多くのウィルスは進化的に安定な関係である自然宿主に感染している場合にはほとんど症状を出さないが、別の生物に感染するとたちまち劇症化、重い症状を出すことがある。突然変異が特になくても、そのままのウィルスが宿主によって病態を著しく変える。

 あるウィルスに感染して重篤な症状を呈し、死に至る宿主のことを終末宿主という。他の生物を自然宿主とし、偶発的にヒトに感染して重篤化するのが、新興感染症の正体なのだ。

 

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