« Clinical 行動科学に基づいたブラッシング用具の選択と使い方 ① | トップページ | Clinical 行動科学に基づいたブラッシング用具の選択と使い方 ③ »

2020年8月18日 (火)

Clinical 行動科学に基づいたブラッシング用具の選択と使い方 ②

続き:

 

1, ブラッシング指導の受容性

 「ブラッシング指導を繰り返しても、丁寧なブラッシングが定着しない」、「指導の時にはきれいに磨くことができるが、定期健診の時にはもとに戻ってしまう」などといったことを日常臨床で経験することがある。日常臨床において、定期健診の度に歯垢染色液を用いて、磨き残しの指摘をして「小さな歯ブラシを用いて小刻みに動かし時間をかけてブラッシングをしてください」などといった画一的な指導づけを繰り返し行ったりしていないだろうか。

 歯面に歯ブラシを適切な角度を当てる、細かく振動させるなどの作業はさほど難しくないように感じることもあるかもしれない。しかしながら、複雑な形態をしている歯面を、ほとんど手指の感覚のみに頼って清掃を行うブラッシングはきわめて高いスキルを要するもので、これらのスキルをすべての患者に一律に要求するのは無理がある。

 一時的にブラッシング行動に変換が生じたとしても、それが複雑であればあるほど日常生活への定着に至らず、生活習慣の変容は難しい。さらに、高いスキルを要する行動でなくても、「ブラッシング時間を長くする」などの日常生活習慣を変えることは容易ではない。

 ブラッシング指導を求める患者は少なくとも自身の口腔内を維持・改善したいと思っており、その思いを実現するために最小の努力で最大の効果となるように本人のできることを見つける必要がある。その際、適切な道具の選択が重要となる場合が少なくない。

 指導者側が「シンプルで、指導しやすい歯ブラシだから」あるいは「自分自身が使いやすい歯ブラシだから」といった理由で歯ブラシを一律に推奨するのではなく、個々の患者の価値観や生活習慣を考えて、行動科学的知見をふまえた保健指導を心がけていくことが大切だ。

 

2. 予防と治療の保健指導の受容性の違い

 患者は治療の際には、口の中になんらかの不具合や困りごとがあるために歯科医院を受診する。そして、患者はその不具合を解消するために、苦痛を伴う治療であっても受ける。そして、我々の歯科保健指導にも耳を傾ける。自身の困りごとを早く解決したいと、日常生活において負担のある指導であっても順守しようと努力していくことを感じることが多い。

 しかしながら、定期健診など予防を目的として来院される方は患者ではなく、口腔に関して大きな困りごとのない一般の生活者である。そのため、保健指導の内容は日常生活で順守するにあたって負担が軽微でなければなかなか継続できるものではない。歯科医師は、困りごとのある患者と一般生活者の違いを十分に理解し、定期健診では一般生活者目線での保健指導を心がけ、受容性の高い指導を行っていく必要がある。

 

3. 歯科疾患予防に関する診療ガイドライン

 治療だけでなく予防においてもエビデンスに基づいたケアが要求されるようになり、世界では歯磨きに関する診療ガイドラインが発表。

 ① 米国予防医療研究班 (CDC) ② カナダ予防医療研究班 ③ スコットランド大学間ネットワーク

 それらのガイドラインでは、う蝕予防にはフッ化物配合歯磨剤の使用が推奨されている。歯ブラシやデンタルフロスによる歯垢除去はう蝕予防の科学的根拠が乏しいとされており、フッ化物配合歯磨剤がう蝕予防の中核的な存在であることは世界でのコンセンサスが得られている。

 WHOも、これらの診療ガイドラインと同様に、う蝕予防にはフッ化物配合歯磨剤の普及が最も重要であるとの見解を示している。

 一方で、歯周疾患予防には毎日のプラークコントロールが推奨されており、う蝕と歯周病ではブラッシングによる予防の科学的根拠が明確に異なっていることが分かる。

« Clinical 行動科学に基づいたブラッシング用具の選択と使い方 ① | トップページ | Clinical 行動科学に基づいたブラッシング用具の選択と使い方 ③ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事