コロナ危機は生態系からの警告である ⑥
続き:
<野生動物との共生――どのような世界を望むのか ①>
新型コロナウィルス感染症でとくに注目されたのは、野生動物が食用として人間社会にいることのリスクだ。新型コロナウィルスは、オオコウモリからセンザンコウを通じて中国の食品市場に入り込んだのではないかと疑われている。センザンコウはシロアリやアリを主食とする鱗におおわれた哺乳類で、華人社会を中心に肉を食用あるいは鱗を薬用として珍重されたきた。重症急性呼吸器症候群(SARS)でも、食用として売られていたハクビシンからの感染が疑われた。これらの指摘を受けて、2020年2月末、中国全国人民代表大会の常務委員会は、野生動物を食べる習慣の根絶や野生動物の全面的な取引の禁止を決めたと報道されている。前にも述べたようにアフリカでもブッシュミートの需要は大きく、人獣共通感染症のリスクだけではなく、野生動物の絶滅リスクを高めている。とくに繁殖率の低いゴリラやチンパンジーをはじめとした霊長類にとって、狩猟あるいは感染症による個体の喪失は個体群に対するダメージが極めて大きく、簡単には回復できない。
農業や牧畜業では、過去数百年にわたって、コムギ、トウモロコシ、イネあるいはウシ、ブタなどの優良な少数の生物種を世界中に広げ、人為的に野生動物を減らすことで、食糧生産性と労働効率を高めてきた。多くの野生動物は「雑草」、「害虫」、「害獣」とされて、農業生態系での生物多様性は著しく減少した。人類は自らの人口を増やすと同時に、家畜の数も大幅に増やしてきたので、いまや家畜は哺乳類のバイオマス(生物重量)の60%を占めるに至っている。ヒトのバイオマス自体が36%といわれているので、野生の哺乳類はわずか4%でしかない。多数の家畜は、それらを利用する病原体にとって好条件となった。口蹄疫やアフリカ豚熱(ASF)などの蔓延がそれを顕著に示している。その結果、人獣共通感染症が人間にも拡大するリスク確実に増やしている。
では、人獣共通感染症防止のために、自然宿主である野生の哺乳類を「敵」として撲滅することが望ましい解決策なのだろうか。今回の新型コロナウィルスに関しても、世界各地で自然宿主とされるコウモリへの迫害が起こっている。国連環境計画(UNEP)は、コウモリが直接、新型コロナウィルスのヒトへの感染を広めている事実はないとしたうえで、コウモリは花粉媒介や種子散布などで有用植物の繫殖を手助けし、害虫を捕食することで駆除するなど、年間数千億円相当の利益を人間社会にもたらしている。コウモリの殺戮は、新型コロナウィルス感染症の拡散には何の抑制効果を与えないばかりか、生態系にコウモリがいることによって得られる経済的価値を大きく損ねることになると警告している。
« コロナ危機は生態系からの警告である ⑤ | トップページ | コロナ危機は生態系からの警告である ⑦ »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- Report 2023 感染症根絶 ③(2023.11.28)
- Report 2023 感染症根絶 ②(2023.11.24)
- Report 2023 感染症根絶 ①(2023.11.15)
- Science 糖尿病における歯周病 ~基礎研究からその問題点を考える~ ⑦(2023.11.11)
- Scince 糖尿病と歯周病 ~基礎研究からその問題点を考える~ ⑥(2023.11.08)