« いまこそ <健全な社会> へ ⑧ | トップページ | いまこそ <健全な社会> へ ⑩ »

2020年9月25日 (金)

いまこそ <健全な社会> へ ⑨

続き:

□ 危機を抜け出すために――移行の可能性と条件を探る

● <健全な社会> をつくる

 <コロナ以後>の社会生活はどのようになるだろうか。一つの可能性は、巨大企業を支援する国家の強力な経済開発政策によって、これまで通りの経済成長主義路線を進むビジネス・アズ・ユージュアル(BAU)の道だ。コロナ以前にポスト・デモクラシーが蔓延し、新自由主義政策を推進していた社会では、この可能性が高くなるだろう。

 この場合、格差対策と環境対策は後退して、危機によって弱体化した産業部門や生活領域の更なる市場化、および強い国家への依存が進むだろう。

 これに対してもう一つの可能性がある。それは、社会正義と環境正義を両立させ、なおかつ人間の自律性を高めていく方向へと社会の仕組みを転換していく道。中野(筆者)はこれを、<健全な社会>(a Healthy Society)を創造する道と呼びたい。<健全な社会>においては、豊かさ(wealth)と健康(health)の意味が脱構築される。15~16c.まで、英語のwealthには多面的な意味があり、幸福(happiness)と健康(health)と物質的繁栄(prosperity)が組み合わさった「健康で良質な生活」を意味していた。

 この本来の意味での wealth においては、健康もまた幅広い文脈で捉えられており、均衡のとれた生活環境によって育まれる心身の健やかさや幸福感を指していた。ところが、18c.半ばに産業革命が始まり、英国で政治経済学が台頭してくると、wealth はもっぱら経済的な「富」を意味するようになり、幸せと健康は後景に追いやられた。そうして健康は医療の問題に還元されるようになった。

 それから現在に至るまで、産業社会は、18c.に現れたこの特殊で狭い意味での「豊かさ」を求めてきた。その結果,経済成長の過程で生活の質の低下(環境破壊、コミュニティの崩壊、健康の悪化)が生じたとしても、その対価を更なる消費の拡大で解消しようとしてきた。しかし、このようなメカニズムで動く社会経済モデルが持続不可能であることは、今回のコロナ危機で十分に証明されたはずだ。

 重要なのは、本来のwealthの意味に立ち戻り、汚染と格差の無い健全な環境の中で幸せに暮らせる社会をつくることだ。

 公衆衛生学者R・ウィルキンソン&K・ピケットの研究が指摘するように、現代産業社会における心身の不健康の根元には格差の拡大があり、人々は社会的地位の階段を転落する恐れと不安から消費主義に走る。そして過剰な消費主義は、地球環境破壊を悪化させる主因となっている。従って、平等で持続可能な社会を実現するためにも、格差是正と環境対策を同時進行で行うことが重要なのだ。コロナ危機の解決の道は BAU ではない。消費主義から抜け出し、脱経済成長パラダイムの下で社会のバランスを再生するほうにある。

« いまこそ <健全な社会> へ ⑧ | トップページ | いまこそ <健全な社会> へ ⑩ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事