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2020年9月 3日 (木)

コロナ危機は生態系からの警告である ⑤

続き:

<環境変化によって高まるリスク>

 国連食糧農業機関 (FAO) にて公表された「2020年版グローバル森林資源アセスメント」によると、現在、森林面積は40.6億ヘクタールで、世界の陸地およそ 1/3 を占める。森林の存在は地理的偏在し、世界森林の 1/2 以上がロシア連邦、ブラジル、カナダ、アメリカ合衆国、中国の 5か国に集中している。世界的に森林面積は減少傾向にあるが、減少率は鈍化しつつある。1990年以来の30年間に世界は178万㎢、日本全土の4.7倍に相当する森林を失った。1990~2020年の間では、アジアを中心にいくつかの国々では森林破壊が減少傾向にあり、また造林や森林拡大に転じた国々もあることから、全体的には純減率は緩やかになっている。しかしながら、2010~2020年の10年間、年間森林面積減少率がもっとも高かったのはアフリカで、次に南米が続き、この二つの大陸では依然として森林破壊が続いている。

 森林は商業伐採、農地・牧地開発、非伝統的な焼畑耕作、薪炭材利用、宅地化など、様々な要因で減少している。そのなかで2015年には当時の総森林面積の4%に相当する98万㎢が森林火災による影響を受け、その2/3以上がアフリカと南米であった。記憶に新しいところでは、2019年6月、アマゾンの森林火災の件数が前年同月比で85%も増加していることをブラジル国立宇宙研究所が発表した。この増加が自然要因なのか、同年1月に就任したジャイール・ボルソナーロ大統領の政策あるいは無策による人為要因なのかは、衛星情報を解析したアメリカ航空宇宙局(NASA)を巻き込んで大きな論争となっている。

 環境クズネッツ仮説という考え方が知られている。経済成長の初期段階では経済成長とともに、環境は劣化していく。しかし、ある所得水準を超えると環境改善にも投資されるようになり、環境がだんだん良好になっていく。日本でも高度経済成長が始まったころは大気や川、海が著しく汚染されたが、その後の経済成長で汚染状態は改善された。この仮説は、森林減少にも当てはまる。熱帯アジアの多くの国で、経済成長の初期には森林伐採で外貨を獲得し、木材による収益は「経済成長のジャンピングボード」として、他の産業育成に投資された。経済が発展すると、国の産業構造が変化し、労働生産性の低い林業よりも収益性の高い製造業などにシフトする。同時に森林を再生せよという国民の声や外圧の高まりを反映して、森林の違法伐採を厳重に取り締まり、植林を進めるような政策への転換が行われる。中国をはじめとするアジアの国々で、森林面積の増加はこの環境クズネッツ仮説で説明できそうだ。

 経済成長によって森林再生の段階に進んだアジアの多くの国々と比べ、アフリカや南米の国々で森林減少が続いている。そして、アフリカや南米で熱帯林が縮小あるいは分断化され、人間活動が野生動物の領域だった場所に深く入り込むことによって、野生動物を自然宿主としてきた未知のウィルスに遭遇し、偶発的に人間社会に持ち込む可能性は高まっていることは間違いない。さらにニパウイルスの例でも、熱帯林を開発して家畜を飼育することで、家畜を介して野生動物のウィルスが人間社会に持ち込まれることは、もっとも警戒すべき脅威である。

 地球温暖化それ自体も、新興感染症のリスクを増大させている。デング熱やジカ熱などのウィルスを媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカは熱帯性であり、そのためこれらの感染も熱帯の風土病と考えられていた。しかし、地球温暖化の進行によって、熱帯性の蚊の分布域が広がっている。2014年の夏、代々木公園を中心に100人を超えるデング熱患者が確認されたことは、記憶に新しい。日本にはまだネッタイシマカが常在しないため、デング熱を媒介したのはおもにヒトスジシマカだと考えられている。このヒトスジシマカの分布と年平均気温11℃以上の地域はほぼ一致しており、国内でも温暖化に伴って分布の北上を続けている。1950年以前にはその分布北限は福島県の南境であったが、2000年には山形県の南半分と宮城県のほぼ全域にまで分布を広げ、2005年には秋田県の八森~横手、岩手県の大船渡を結ぶ線まで北上している。

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