いまこそ <健全な社会> へ ⑩
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● レジリエンスの高い社会を創る
<健全な社会>が目指すべきは、レジリエンス高い社会である。近年のレジリエンス研究によると、あるシステムのレジリエンスを高めるためには、システムを構成する要素がネットワークを形成しつつも、各要素間にモジュール性が担保されていなければならない。つまり、各要素が緩く繋がりつつも、それぞれが自律性を維持しておくことが重要だ。この点は地域コミュニティーだけでなく、グローバルな複雑性についても当てはまるだろう。
必要なのは、様々なリスクを抱えるグローバルな複雑性の構成を、その内部から組み替えていく作業だ。これはまさに、経済のグローバル化の水面下でローカリゼーション運動が進めてきたこと。スローフード、産直提携、コミュニティ・エネルギー、地域通貨、トランジション・タウンなど、社会連帯と自然との共生を重視する様々なオルタナティブ経済活動が、国境を越えたネットワークを形成し、各地で地域循環型経済の創造を試みている。
これらの取り組みは、 IoT を活用する協働型経済(Fab-lab)やコミュニティ・アート、そして水道事業や電力会社の再公営化を推進する新しい自治体政治と共鳴しながら、市場とも国家とも位相を異にする自律的空間として<共=コモン>の構築を目指す。
<共>の構築は、人や物や知識の移動を否定する閉鎖的な地域主義とは異なる。<共>の構築の過程において、ローカルな社会関係や自然は人間の生活と生命を支える重要なエージェント(主体)として再認識され、市場原理とは別の論理に基づいて繋がり合い、影響を与え合う。このローカルな生活の場で描かれる人と人、人と物/自然との諸関係の中に、インターローカルな移動と交換のダイナミズムが、地域の自律性を損なわない仕方で埋め込み直される必要がある。このようなローカリゼーションは、経済的・社会的・生態学的つながりの好循環を各地域で創出する方向へと、グローバルな移動が生み出すフィードバック・ループを組み替えるのだ。最終的に、グローバルな複雑性は、多様な<共>の世界が響き合う多極分散型で多元的なモデルへと変わるだろう。
コロナ危機は、このような<共>構築を基盤とした社会への移行の可能性も示している。ロックダウン中、フランスでは産直提携運動(AMAP)が急進し、世界の主要都市(フィラデルフィア、ミネアポリス、チャペル・ヒル、ヴァンクーバー、カルガリー、ボゴタ、ベルリン)では、排気ガス抑制と健康維持のため車道を自転車レーンや歩行者天国に一時的に転換する社会実験が行われた。日本でもまた、東京の助産婦有志のネットワークが、里帰り出産できない妊産婦を支援する活動を始めている。コロナ危機で物理的距離が要請されているからといって、日常の社交や協働、共感や連帯の可能性まで自粛する必要はない。それらは人間の創造性と自律性、幸福感と健康の源泉だ。健全な社会を創るためにも、我々は、様々なネットワークを駆使してつながり続け、<共>をデザインしていくことを止めてはならないのである。
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