人間と科学 第316回 体と心の5億年(6)――養老孟司 ②
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布施(著者)はこれまで50冊ほど本を書いてきたが、それほど売れない。一生に一度でいいから、そう批判されて、そういうセリフを言ってみたいが、そう言う機会はない(苦笑)。
それはともかく、その時に養老先生と話したのは、「当たり前というのと、凡庸というのは、ぜんぜん違う」と言うことだった。養老先生は「当たり前というのが、いちばん難しい」とおっしゃっていた。
「ほとんどの人は『我がまま』つまり『個性的である自分のまま』だから、普遍的な思想に到達しない……そこで通用する自分を自分だと信じているから、個性的で独創的になってしまう。世界中どこに行っても通用し、百年たっても通用する、そんなことを考えることができない」(養老孟司『無思想の発見』ちくま新書より引用)
だいたい、解剖学(をはじめとする医学や科学)が探究するのは、誰にでもある共通点だ。例えば、日本人とフランス人には違いがある。顔だって違うし、髪や目の色も違う。しかし違うからといって、例えばフランス人の患者が来たら「自分は日本人の体しか分からない」という医学では通用しない。すべての人に共通する普遍的なもの、つまり「当たり前」を探り当てるのが、解剖学(をはじめとする医学や科学)の一つのあり方なのだ。医学や体に限らない。「当たり前」を見つけるのは難しい。『バカの壁』は、その当たり前の、ど真ん中を指し示した本だった。
ところで、「養老孟司の世界」とは、どのようなものか?養老先生は、沢山の本を書いてきた。雑誌に書いた短文をまとめたものなど、口述を元に編集者やライターさんがまとめたもの、連載をまとめたものなど、いろいろな本の作り方があった。
しかし、やはり養老先生の世界が結晶しているなは、初めから終わりまで養老先生自身が構成し、一気に書き上げたもの、つまり「書き下ろし」の本だ。
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