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2020年9月12日 (土)

Clinical ~発達不全と低下~ ①

弘中祥司(昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座衛生学部門教授、同大学口腔ケアセンター長)の小論文を掲載。コピーペー:

はじめに

 我が国は着実に人口減少が進んでおり、その中でも少子高齢化が加速している。さらに100歳以上の高齢者数は目を見張るべき増加で、厚労省のまとめによると、2019/09/15、時点の住民基本台帳に基づく100歳以上の高齢者の数は7万人を超えている。一方で8020運動の達成者も、健康日本21(第二次)の目標である50%に平成28年度に年到達するなど、歯の喪失の少ない高齢者もこれまでの調査年よりも増加していることが分かる。

 これからの人口動態を勘案した場合、昔は高齢者の治療といえば、入れ歯の調整だけだったのが、今後はう蝕や歯周病などの治療の比率が増加し歯科治療の需要が異なってくることが予想される。中医協の総会(平成20年)でも、歯の形態の回復を中心とした「治療中心型」の歯科治療から、口腔機能の維持・回復を中心とした「治療・管理・連携型」の歯科治療にシフトすることを挙げて警鐘している。さらに、令和2年度の歯科の診療報酬改定において、新たに、非経口摂取患者口腔粘膜処置(100点)が新設、経口摂取困難な患者で、患者自身による口腔清掃が困難者に対して適応されるようになった。

 健康な人のう蝕や歯周病はかなりの比率で制御されているが、入院中や在宅療養者、要介護者・障碍者のようにセルフケアが十分に実施できない方への歯科医療のパラダイムシフトが急務であることが叫ばれている。この経口摂取困難者こそ、口腔機能が障害されており、我々歯科医師は、形態の回復のみならず機能の回復(発達)をより細かな視点から評価し、向上させる時代へと突入したのである。

 平成29年の国民健康・栄養調査で、70歳以上の高齢者は、20歯以上歯を有する割合が少ないにもかかわらず、およそ5~7割以上が「何でもかんで食べることができる」と回答している。入れ歯によって噛む能力が維持されているのかは、読み取れないが、普通の物を食べているといっても、「スルメ」と「豆腐」では硬さに大きな違いがある。すなわち、「何でも食べられている」と回答した者は、知らず知らずのうちに軟らかい食材を選んでいる可能性があることに気付く。これが、まさに高齢者のフレイリティサイクル(虚弱への連鎖)であり、オーラルフレイルの概念に通じるところである。

 しかし、口腔機能低下やオーラルフレイルの概念は、回復可能であるところが大きなポイントである。早期発見し口腔機能を回復することが、我が国における新たなライフステージに応じた医療保健対策であると考えている。高齢者の食の終末は歯の喪失から始まる。口腔機能を評価する時代に突入している現代ではあるが、その機能に重要な役割を果たしている「歯」や「口腔」の存在を忘れてはならない。そして、当然ながら、成人期に正しい口腔機能を獲得するためには、乳幼児期の口腔機能の獲得をスムーズに行う必要性が強調される。

 我が国では、平成30年度の歯科の診療報酬改定にて、「口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の推進」がテーマに挙げられ、そのなかでライフステージに応じた口腔機能管理の推進で、新たに歯科疾患管理料:小児口腔機能管理加算(100点)が新設された。同時に新設された歯科疾患管理料:口腔機能管理加算(100点)は歯の喪失や加算等により、口腔機能の低下を認める患者のうち、特に継続的な管理が必要な患者に対するものと記載があるが、前述の小児のものと併せて、それぞれ口腔機能発達不全症と口腔機能低下症という病名が新設された。

 


 

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