いまこそ <健全な社会> へ ④
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J・アーリが明らかにしているように、脱組織化した資本主義のグローバルな複雑性を構成しているのは、人・モノ・情報の移動(モビリティーズ)の絶え間ない流れ(フロー)だ。グローバル化した世界には一つの安定した構造や固定した中心があるわけではない。生産拠点の海外移転、全地球的な物流網の発達、移民労働者、観光客、インターネットを通じた取引や情報の交換は、グローバル・シティに代表される諸都市を結節点にしつつも、全地球的な網の目を形成し、常に流動的に変容する。
アーリが複雑系科学の知見を援用しながら強調するのは、このような流動的な移動のネットワークによって形成される世界においては、一部のローカルな場所で起こった変化が地球規模での影響を与えるグローバルなフィードバック・ループが多次元的に存在し、システムに非線形な動的変化を生じさせるということだ。
実際に、過去数十年を振り返ると、経済のグローバル化の進展と共にシステミックなリスクが地球規模で蓄積されていた。
● 社会的リスク
――先進産業社会の多国籍企業は安価な労働力を求めて生産拠点の海外移転を大規模に展開。さらに、国内では労働市場の規制緩和による非正規雇用の増加、低賃金の外国人労働者の受け入れが進んだ。先進国の格差は米英を中心に著しく拡大し、地域コミュニティの社会関係資本の衰退、幸福度の低下、健康の悪化など、社会のまとまりが大きく崩れてきている。
● 生態学的リスク
――生産拠点、物流、旅行のネットワークの全地球的拡大は、輸送にともなう環境負荷を高めた。IEAの調査によると、2018年の世界全体の燃料燃焼から出てくる二酸化炭素排出量の24%は、運輸によるもの。乗用車やトラックなどの陸運はそのうちの 3/4 を占め、空輸と海運による二酸化炭素排出量もまた年々増加。これらグローバルな輸送の増加は地球温暖化に大きく寄与するだけでなく、世界の主要工業都市を中心に大気汚染による健康被害のリスクも高めている。
● 疫学的リスク
――地球規模での都市化と工業的畜産の発展は、野生動物の生息域の減少にともなう感染症の発生リスクを高めている。さらに、観光・ビジネス・医療支援など国境を越えた移動の増加は、空港や大都市を中心に感染症の流行のリスクを高めている。
● 安全保障上のリスク
――グローバルな移動は、国際的なテロ活動も促進した。2001/09/11、米国同時多発テロはそのメルクマールと言えるだろう。以後、アルカイダや ISS の活動に見られるように、インターネットを通じて特定の場所で起こったテロ活動が、世界各地において複製される事態が起こっている。
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