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2020年10月29日 (木)

人間と科学 第317回 今と似ていない時代(1) ②

続き:

 人類がいつ最初に農耕を始めたかについては、決着のついていない様々な議論がある。従来は、およそ1万3000年前に中近東で起こった気候の寒冷化がきっかけだったとする説が有力視されていた。だが最近の研究によれば、最初の栽培植物が出現したのはむしろ温暖な時代だったようである。中近東以外の場所でも、最初に農耕おこなわれたらしい証拠はすべて、氷期が終わった後の温暖な時代からみつかっている。しかも農耕は、中近東を起点として世界各地に伝播したのではなく、いろいろな場所で「独立に」始まったらしいのである。

 氷期の人類は世界のどこでも農耕に着手せず、氷期が終わった後の人類は、誰に教わることもなく農耕に移行していった。この不思議な同期現象の背後には、どのような理由があったのだろう。

 もっとも傲慢な説明は、そのころ人類の知性が十分に発達し、それ以前の祖先よりも「賢くなった」」とする考え方である。だが、進化のプロセスは本質的には偶然に支配される。移動や遺伝子の交流が今よりはるかに乏しかったはずの時代に、世界各地で並行的に同じような進化が起こったと考えることには無理がある。

 氷期は要するに寒すぎて、作物の生育に適さなかったとする考え方はどうだろう。残念ながら、この説にも合理的な疑問は残る。氷期は、ヨーロッパやアメリカの大半が氷に覆われていたことからそのように命名され、まるで地球のあらゆるところに雪が降ったようなイメージを与えてしまっている。

 だが現実には、世界がもっとも寒冷だったおよそ2万年前ですら、例えば赤道直下であれば、農耕が始まった頃の中近東よりも温暖だった。絶対的な温度だけを問題にする限り、中近東で氷期が終わるのを待つ代わりに、氷期の熱帯でさっさと農耕を始めなかった理由を説明できないのである。

 この謎を解くためのヒントは、氷期の気候に関する詳細な研究の中からみつかった。グリーンランドの内陸には、あまりに寒すぎるために夏でも溶けることのない雪が、何万年分も連続して積もっており、その厚さはじつに3000mにも達する。

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