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2020年10月11日 (日)

可視化されたべーシックインカムの可能性 ①

本田浩邦(独協大学経済学部教授)さんは「世界 9」に小論文を載せています。コピーペー:

 現在、多くの国々でコロナ不況対策として休業補償や家計に対する直接給付が大規模に行われている。これらは2007~08年の世界金融危機において見られなかったものである。しかし、それらの多くはコロナ危機以前の経済のパターンに戻ることを想定あるいは目的としたものが多い。

 そうした中で、欧米では、これまで進められてきた緊縮政策の岩盤に楔を打ち込み、労働と社会保障の新たなヴィジョンを求める動きが注目される。べーシックインカム(普遍的基礎所得 Universal Basic Income、あるいは保証所得 Guaranteed Income)を目指す運動がそれである。

 ベーシックインカムとは、社会成員に対する無条件的な定期的現金給付を指す。従来の社会的給付、公的扶助のほとんどが労働能力、所得・資産の欠如を条件とするものであるのに対し、就労、資産、婚姻の有無などを問わない給付だ。一人月額3万円から10万円程度が想定される。制度設計の仕方にもよるが、これが実現すれば労働者、国民の生活の安定の交渉力の向上、経済的選択肢の広がりが期待される。コロナ危機の中でベーシックインカムが注目されている現状と背景をみてみよう。

■ コロナ危機対策の直接給付からベーシックインカムへ

 1アメリカ

 アメリカで3月に成立した2兆ドルのARES法(コロナウィルス救済法)には、年収7万5000ドル(約800万円)以下の家庭に対する一律1200ドル(子ども一人に500ドルを追加)の直接給付が盛り込まれた。支給基準が緩やかなこうした手厚い措置はかってみられなかったものである。今後の経済の落ち込みへの懸念から、現在、政府は救済の第1弾の検討を進めている。

 そうした中で去る4月、民主党のナンシ・ペロシ下院議長が、現在、下院民主党議員の 2/3 が少なくとも何らかの形でのベーシックインカム型の継続的な直接現金給付を支持していると述べた。このことは大統領選挙へ向けた民主党のプラットフォーム(政網)に、ベーシックインカム、もしくはそれに準じたものが含まれる可能性を示唆するものと受け止められている。

 ベーシックインカムとはいえ、給付に際して所得制限や給付期間を設けるといった限定的なものから、そうした限定のない恒久的な本来のベーシックインカムまで意見はまちまちであり、大半は何らかの給付条件が想定されている。しかし支給に対して所得制限を設ける場合でも、その基準は年収10万ドル程度以下で、支給額は月額一家族1000ドル、子ども1人に500ドルが大まかなコンセンサスといわれており、そうだとすれば所得上位3割を除く7割が支給対象となり、4人家族で年3万6000ドル(約400万円)と、本格的なベーシックインカムに近いものとなる。また期限を設けたとしても、それが半年なり1年となると、コロナ危機という特殊状況下ではあれ、全米規模で事実上のベーシックインカムの実証実験が行われたことになる。

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