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2020年10月12日 (月)

可視化されたベーシックインカムの可能性 ②

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 ベーシックインカムに対する共感が、コロナ危機の中で急速に広がりつつある。フェイスブックの共同創設者であり、2016年にベーシックインカムの実施と反独占(企業規制強化)を求める団体「エコノミック・セキュリティ・プロジェクト」を設立したクリス・ヒューズ氏は、こうしたベーシックインカムをめぐる論調の変化にコロナ影響だけによるものではないという。

 「パンデミックだけでではない。アメリカ経済はいま驚くべき経済格差によって不安定性と脆弱性を抱えている。経済を立て直すためにはベーシックインカムが一時的に危機対策としてのみならず、恒久的な政策となるべきだ」。

 ヒューズ氏よれば、これまでアメリカではどの党派も経済効率のみを追い求め、減税と規制緩和を繰り返してきた。その結果が驚くべき不平等と経済停滞だ。コロナ危機はこうした事態に偶然光を当てたに過ぎない。このように述べ、彼は国民一人あたり月額1000ドル、子ども500ドルの給付を主張する。

 アメリカではすでに2019年2月~20年6月まで、カルフォルニア州ストックトン市において、ヒューズ氏の団体の支援を得て、125世帯を対象に月額500ドルを支給する1年半のベーシックインカムのパイロット・プログラムが行われてきた。同市の29歳の黒人市長マイケル・タブズ氏によれば、現在までのところ、「500ドルのおかげで家を失わなくすんだ」「余裕をもって求職活動ができた」など積極的な声が寄せられ、受給者は働かなくなるのではないかという懸念された事態もおこらなかったという。現在このプログラムは2021年1月までの実施延長が決まっている。

 タブズ市長は現在カリフォルニア州コンプトン、オークンド、ジョージア州アトランタ、ワシントン州タコマ、ミシシッピ州ジャクソン、ニュージャージー州ニューアークなど全米11の市長を集め、「ベーシックインカム市長会」を作り、連邦レベルでの実現を目指し、そのための参照例を作ろうとしている。

 7月には、全米153人の経済学者らが公開書簡を発表、経済状況が改善するまで直接給付を継続すべきだと訴えた。賛同者には保守派、リベラル派を問わず、著名な経済学者が多く含まれていることが注目された。

この間のアメリカでの人種差別に対する抗議行動は、瞬く間に世界的に広がり、奴隷制以来の歴史的遺産の見直しにまで進展している。しかし1960年代の公民権運動がアファーマティブアクション(積極的優遇政策)や投票権、AFDC(児童扶養世帯補助)の拡充といった制度的闘争目標を持っていたのに対し、現在の運動はそれらに相当するものを欠いている。この点でアメリカの所得底辺層にはマイノリティが集中していることから、普遍的給付による貧困救済に直結するベーシックインカムは、構造的貧困の問題を解決する制度的糸口となりうる。アメリカでのベーシックインカム運動は人種問題と不可分だ。

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