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2020年10月22日 (木)

ベーシックインカム(連帯経済としての) ②

続き:

 ブラジル・マリカ市の連帯経済

 ブラジルリオデジャネイロから東に約40kmのところに、マリカ市という人口16万人の自治体がある。

 コロナ禍が襲うなか、ここでは現在、比較的所得の低い42,000人の市民に、月300レアル(約6000円)を地域通貨で支払っている。受給者は市人口の約1/4にあたり、受給額はブラジルの貧困線の169%にあたる。さらにフリーランスで働く人には1045レアルが支払われているという(ブラジルの一人当たり所得の中央値は月862レアル)。今年1月~5月にかけて、ブラジル全体で約800万の、リオデジャネイロ州で約16万5000の職が失われたが、マリカでは78しか失われていないという。いったいここでは何が行なわれているのか。

 話は2008年に遡る。市内のファヴェーラ(スラム)出身で労働者党(Partido dos Trabalhadores)のワシントン・クアクアが市長となり、市民参加型の連帯経済の実現をめざす。実現に向けて大きく動いたのはクアクアが市長に再選された後の2013年から15年にかけてのこと。市中心部を流れる川にちなんだ名前の地域通貨「ムンブカ」を発行するために、コミュニティ銀行であるマリカ人民共同体銀行(Banco Comunit'ario Popular de Maric'a 通称ムンブカ銀行)設立。比較的所得の低い世帯に月85ムンブカを支給した。

 支給を受けた市民はムンブカをブラジルの法定通貨レアルに換金することはできないが、市内の商店などの事業所がムンブカでの支払を受け入れる場合には、それらの事業所はマリカ人民共同体銀行でムンブカをレアル1対1で交換することができる。ただし交換額の2%を手数料として支払う。

 市民への給付は当初世帯単位だったが、2019年には個人単位となり、支給対象者は約42,000人まで広がった。額は月額130レアル(正しくはムンブカだが、交換レートは1対1なので本稿はレアルで表記する)となった。そしてコロナ危機対応として2020年4月、月300レアルへと増額された。

 現状、すべての市民に給付されているわけではないので、冒頭に定義したような意味でのベーシックインカムではない。その意味で、葡字紙や英字紙でベーシックインカムと報道されているのは勇み足ではあるのだが、それには理由もある。市は徐々に支給対象を拡大してきたが、2021年には支給対象を市民全員にまで拡大し、ベーシックインカムにしたいとしている。

 市の前連帯経済局長のディエゴ・ザイデンは、「ベーシックインカムは人権を考えられるべきであり、人間は尊厳のある生活を送ることができるべきだという議論を軸にマリカ市はなりたい」と述べる(もう一つの理由は、後述するように、「市民ベーシックインカム法」で段階的実施が謳われているため)。

 ムンブカが使えるのはマリカ市内に限られているが、現在ムンブカえの支払いを受け付けるビジネスは約3000事務所におよぶ。マリカ市はリオデジャネイロの郊外に位置し、多くの市民がマリカ市外へ通勤・通学をしており、市外での消費機会が多い。そこを、地域通貨の流通によって消費が市外へ流出するのを防ぎ、市内での経済循環を促している。

 市の連帯経済プロジェクトにおける地域通貨ムンブカの役割は給付だけではない。高等教育進学者への最大376レアルの給付奨学金、無利子のマイクロクレジット、市内の公共交通の無料化、教育への投資、地域でのさまざまな参加型活動などがあげられる。

 一部で「ユートピア」とも称されているマリカでの自治体主導の連帯経済実践を政治面で可能にしているのが労働者党市政だとすれば、財政面で可能にしているのは、マリカ沖にある油田だ。市の予算の約70%を石油収入が占めている。ただ、そうした収入のある自治体すべてが現在のマリカ市のような連帯経済を実践しているわけではないことを考えると、単に油田があることによる特異な例としてではなく、私たちが学べることがあるはずだ。

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