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2020年10月23日 (金)

ベーシックインカム(連帯経済としての) ③

続き:

    ブラジルにおける連帯経済とベーシックインカム

 マリカ市での実践を政治面で可能にしているのは、労働者党市政と言ったが、もう少し敷衍したい。ブラジルにおける連帯経済の実践は、軍事政権支配下の1970年代に遡る。とくに著明なのが、セアラ州フォルタレザ市パルメイラ地区での連帯経済運動だ。同市沿岸部の再開発計画にともない、おもに漁業で生計を立てていた住民が内陸部パルメイラ地区に移住させられた。彼ら彼女らは1980年代よりパルメイラ地区住民協会を結成、さまざまな社会運動や相互扶助活動を行なう。1998年にはパルマス銀行(Banco Palmas) 創設し、地域通貨パルマスを発行。住民たちは銀行の建物で毎週会議を行なっている。また様々な労働者協同組合が作られ、地域住民の雇用の場となっている(西部ほか、2012)

 パルマス銀行の成功に触発されて、現在では100近いコミュニティ銀行がブラジルに存在する。マリカ市の実践もパルマス銀行をはじめとするパルメイラ地区の連帯経済実践の影響を受けているといわれる。

 ブラジルにおける連帯経済の代表的理論家でオーストリア生まれの経済学者パウル・ジンガーは、労働者党の創立者の一人であり、2003年に労働者党ルラ政権が成立して、連帯経済局が設置されると、その初代局長となる。ルラ政権下で制定されたのが2004年の「市民ベーシックインカム法」だ。この法の下で、全市民はベーシックインカムの権利を持つとされると同時に、税制改革とともに漸進的に、より困窮している人からベーシックインカムを支給するとされた。その第一段階としてボウサ・ファミリア(Bolsa Fam'ilia)とよばれる所得制限付きの児童手当が導入された。導入からの10年で(世界銀行の国際貧困線に基づく)貧困率が9.7%~2.7%に改善された(一世帯当たりの支給額は2018年の段階で188レアル)。

 法律制定後、2008年にはサンパウロ近郊の人NPO口100人ほどのコミュニティで、NPOが月30レアルのベーシックインカム給付を始めるなど、様々な試みが触発された。マリカ市の動きも、こうした連帯経済とベーシックインカムをめぐるブラジル全体の状況を反映したものといえよう。

 なお、コロナ禍の2020年3月、ブラジル連邦議会下院は、低所得者対象に月600レアルの「緊急ベーシックインカム」を、同年4月~12月まで給付する法律を成立させた(これも冒頭の定義におけるベーシックインカムではないが、法律の文脈ではベーシックインカムといっても間違いではない)。

 

 

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