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2020年11月28日 (土)

人間と科学 第318回 今と似ていない時代(2) ①

中川 毅(立命館大学古気候学研究センター長)さんの研究文を掲載:コピーペー:

 

凍り付く大地

 

 人間が氷期の存在を知ったのは、18~19c.のヨーロッパでのことだった。何人かの先駆的な地質学者たちは、アルプスの周辺に見られる特徴的な地形や石の配置が、高山帯の氷河がかっては平野にまで伸びていたと考えることでしか説明できないことに気付いた。それから数十年にわたる論争の期間を経て、19c.後半までには、保守的な学者たちも氷期ががって「存在」したことまでは認めるようになっていった。

 そうなると浮上するのは、では氷期は「いつ」そして「なぜ」やってきたのかという問題である。なにしろ、見慣れた町や畑のすべてを氷で埋め尽くすほどの事件である。それがもしまた起こるとすれば、人類社会に与える影響は果てしなく大きい。次にそれが再び起こる可能性があるのかどうかを知るためには、過去にそれがどのような法則に従って起こっていたのかを、まず調べる必要があった。「古気候学」の萌芽である。

 19c.の後半、過去の気温を復元したり、岩石の年代を正確に測ったりする技術はほとんど存在していなかった。学者たちは辛うじて手に入る証拠として、氷河に運搬された砂利が作る、独特の細長い丘(モレーンと呼ばれる)に注目した。そのような丘は、氷河がいったんその地点まで拡大し、その後で後退したことを示している。丘と丘との重なり具合を見れば、どちらが新しくてどちらが古いかの前後関係も推定できる。地質学者たちはこうした証拠を丹念につなぎ合わせることで、過去の地球には少なくとも4回の氷期があったと暫定的に結論づけた。

 四氷河期説と呼ばれるこの学説の影響力は大きく、中川が子供向けの地学の本を読みあさっていた70年代になっても、それはまだ「定説」としての存在感を持っていた。

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