Science 口腔環境を支える唾液研究 ⑨
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7. 1日の pH の変化
安静時唾液分泌速度は日内変動を示し、睡眠中は少なく、朝6時頃に最低となり、その後14時頃まで上昇し、それから夜にかけて少なくなる。睡眠中はほとんどゼロという文献も報告されている。
我々が測定したpHの変化変化によると、青と赤のグラフにより、青が上顎前歯部唇側面で、赤は上顎臼歯部頬側面を示したグラフ。
両部位とも朝9時より上昇して13~15時頃がピークを示し、pHにも日内変動の影響が表れていることがうかがわれている。
睡眠時は唾液の分泌は少なくなるので、pHも下がることが予想される。赤の上顎臼歯部頬側面は次第に下降していく傾向にあり、驚いたことに、青の上顎前歯部唇側面は上昇傾向を示した。この理由は、口唇粘膜にある小唾液腺の分泌液の影響が考えられた。
小唾液腺は、分泌量は少なく、昼間はあまり目立たないが、就寝後の口腔内の環境に一役買っていることが明らかになった。特に最も唾液の恩恵の少ない、上顎前歯部唇側面は口唇粘膜と接触していることから、これは神が考えた裏技としか言えない現象と思われる。
8. 睡眠中のフッ素の口腔内滞在
マウスガードに寒天ホルダーを取り付けて、睡眠中にその寒天からフッ化ナトリウムがどれだけ唾液中に溶出するかを調査した。寒天ホルダーは下顎前歯部舌側、上顎臼歯部頬側、上顎前歯部唇側面の3か所に取り付け、6人の被検者に対し起床時の寒天中のフッ化ナトリウム濃度を測定した。
結果は、全員わずかでも朝までフッ素が残留していたこと、それから一人の被検者を除いて5人は上顎前歯部唇側面に最も多く残留していることが示された。昼間はフッ素洗口をしても約30分で口腔内のフッ素は消失するが、就寝中は約6時間後でも唾液分泌が少ないためにフッ素が口腔に滞在するから、フッ素洗口は夜寝る前がお勧めである。以前、田沢らは上水道にフッ素が入ったフッ素地区住民の歯種別う蝕罹患性について検討し、フッ素は上顎前歯部のう蝕抑制に最も効果があることを報告したが、その理由がここで証明された。
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