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2020年11月22日 (日)

「容量市場」とは何か ②

続き:

容量市場の誕生と変遷

 容量市場の考えは、1990年代末に米国で誕生した。地域独占と発電・送電・小売の垂直統合が続いてきた電力会社の発送電分離や電力市場の自由化が始まった頃。それ以前の電力独占体制のもとでは、電力需給の長期的な見通しに沿って余裕を持って発電所を計画・建設、必要となる資金も総括原価方式など規制された電気料金で賄うことができた。ところが電力自由化によって、電力安定供給、とくに稀にしか起きない需給逼迫時のための「余分な発電所」が維持できないおそれが生じてきた。電力市場で卸電力価格が変動、また期待しただけの電力販売量が期待できないと、既存の発電所の早期閉鎖や新規発電所への投資が進まない懸念が出てきた。

 米国や欧州などでは発送電分離を含む電力自由化後に、送電系統を従前の電力会社から独立して運用・管理するために「独立系統運用機関」 (ISO/RTO/TSO)という組織が誕生した。送電系統はいわば高速道路と同じであり、その上で運ばれる財(=電力)の発電や小売という競争市場から独立する必要があるからだ。米国に9機関あるISO/RTOの内、米中東部ペンシルバニア州などをカバーするPJMなどのいくつかのISO/RTOが最初の容量市場を設置した。日本は、このPJMの容量市場と英国を「お手本」にした。

 なお、容量市場は広義には「容量メカニズム」と言い、いくつかの類型がある(表 1)。なお、戦略的予備力とは、電力システムの供給安定性を確保する最後の手段として必要な一定規模の発電所(既存または新規)を卸電力市場の外に維持するために、入札で決まった費用を電力系統の管理者が支払うという仕組みだ。容量市場に比べると、必要な費用は格段と小さくなる。

 そもそも容量メカニズムは不要との考えもあり、同じ米国でもテキサス州のISOであるERCOTやノルウェー、デンマーク、オランダなどは、卸電力市場だけで対応している。後述するドイツも幅広い公論を重ねて、容量市場ではなく、「戦略的予備力」を選択した。容量メカニズム全般に対しては、次の批判がある。

①過去の実績に基づく過大予測で価格を歪める 

②市場全体で電源を確保する容量市場は高いコストになり消費者負担を増す

③既存電源に「棚ぼた利益」をもたらす

④本来必要な新しい電源の投資に結びつかない

⑤市場ルールが絶え間なく変わることによる混乱

⑥石炭など環境に好ましきない電源が固定される恐れ

        表 1  容量メカニズムの類型

    範囲  市場全体(容量市場)  市場全体(容量市場) 特定電源(ターゲット) 特定電源(ターゲット)
    区分     集中型     分散型      量      価格
    手法      入札     容量義務    戦略的予備力      容量支払
    採用国   英国、PJM  フランス、ギリシア等  ドイツ、スウェーデン、  スペイン、イタリア、
       ノルウェー 等  ポルトガル等

 

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