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2020年11月23日 (月)

「容量市場」とは何か ③

続き:

「失われたお金」か、棚ぼた利益か

 容量メカニズムで先行した米国で2005年頃から「ミッシングマネー(失われたお金)問題」が認識され始めた。ミッシングマネー問題とは「自由化された電力システムが抱える大きな課題で(中略)投資回収のために必要なお金が十分得られない問題。電力市場から得られる収入が、電源投資を回収するために十分な水準でなく、既存電源の採算性が悪化するとともに、新規の電源投資も起こらない」と現役の電力会社社員が定義していることは興味深い。

 日本での制度検討でも「自由化の進んだ欧米諸国では、市場で電気 (kWh) を販売して得る収入だけでは固定費 (kW)が回収できずに、発電投資が減退し、必要な供給力を確保することができないのではないか」とミッシングマネー問題を紹介した上で、「適切なタイミングで投資が行われず、供給力の不足が顕在化する事態に陥る前に、適切なタイミングで電源投資が行なわれるようにするためには、投資回収の予見性を高める必要がある」としている。

 近年、VRE が急拡大してきた欧州では、この問題がより切実に浮かび上がり、容量メカニズムに注目が集まってきたのである。その結果、英国で容量市場を選択し、対照的にドイツは戦略的予備力を選んだ。その経緯は日本に参考になるため、簡単に紹介する。

英国のケース

 英国では、VRE の急増受けて、2010年から容量メカニズムの必要性が議論され始めた。EUで統一的な容量メカニズムのルールを検討開始した初めてのケースであり、注目を集めた。Lockwood (2019)らの調査に言えれば、英国政府は、検討を始めた当初、ドイツが後に選択した戦略的予備力が有力だった。ところが、六大電気事業者 (ビッグ 6)による政治・行政の両面にわたるロビー活動や影響力を行使した結果、ビッグ 6 にとって実質的に補助金システムと同等な容量市場へと議論が誘導された経緯があると報告されている。

 これは、福島第一原発事故後の国会事故調査会報告でも指摘された「規制の虜」現象と同じだ。規制機関が被規制側の勢力に実質的に支配される状況で、政府の失敗の一つである。容量市場の制度設計においても、新しい分野での専門性や複雑性の高い領域での政策形成であるがゆえに、その領域で知識も情報も人材も資金も豊富な大手電力会社は、政策ロビーを通じて自らの利益、つまり既存の資産と投資の収益を保護する方向に政策を誘導する「規制の虜」が指摘されている。この政治リスクは日本でも疑われる。

 実際に、英国で2014年に実施された容量市場入札では、落札の95%が既存の電源か改修電源で、新規電源が5%に過ぎず、半分以上がガス発電(コンバインドサイクル発電)だった。この結果、2018年11月には英国の容量市場に対する異議申し立てが行なわれ、EU一般裁判所で違法な補助金と認定される。欧州委員会は2019年10月に英国の容量市場を競争政策上、問題ないと結論づけたものの、目前に迫った英国離脱との関係も疑われ、不透明さが残った。また容量市場入札の結果、英国の電力市場は安定供給に必要とされる水準よりも4倍もの余裕を持つことになった。これは、ビッグ 6 にとっては「棚ぼた利益」だが、消費者にとっては余分な負担が毎年 2億 7000万ポンド (約380億円) になるという批判もあるのだ。

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