Clinical 口腔内スキャナー~補綴装置製作(精度・可能性)~⑥
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6. 3Dプリンターの再現性を検討する
口腔内スキャニングデータを用いて、3Dプリンターで樹脂製の作業用模型を製作することができる。
間接法→印象採得――模型製作――――ワックスアップ――→鋳造冠・メタルフレーム
――→ 3D スキャン――→ CAD/CAM 冠
直接法→口腔内スキャニング→● CAD/CAM 冠
→● 3Dプリンター模型――→鋳造冠 , Press 冠
→● 3Dプリンター冠
→● 3Dプリンターアライナー
→● 3Dプリンターメタルフレーム
この作業用模型上でワックスアップを行えば、従来の間接法と同じ鋳造冠や、セラミックプレス冠を製作することができる。模型の再現精度についてはスキャニングデータが同じであれば、3Dプリンター機器の性能が関係する。今回、比較的安価な機器と中程度の価格の機器、そして高価な機器を用いて模型再現精度の検証を行った。
はじめに比較的安価な機器(Form2) で作業用模型を製作した。この機器で製作したプリンター模型でワックスアップを行い、白金加金鋳造冠を製作。模型上では適合良好。口腔内に試適してみるとコンタクトがきつく、患者は強く違和感を訴えた。フィットチェッカーで調べると天井面の厚みが大きく、若干の浮き上がりが見られた。コンタクト調整を行って違和感は消失した。
次に、中程度の価格の機器(rapidshape) で同じように鋳造冠を製作して口腔内に試適すると、コンタクトがややきついという程度で、患者はあまり違和感を訴えなかった。フィットチェッカーでの浮き上がりも見られない。
最後に高価な機器(stratasys) でも同様にワックスアップをして鋳造冠とセラミックプレス冠(e-max press 冠) を製作した。その鋳造冠を口腔内に試適すると、患者は全く違和感を訴えないで装着できた。フィットチェッカーで調べても良好である。セラミックプレス冠についても装着に違和感を訴えることはなく無調整で装着できた。
これらの結果から、それぞれの機器によって再現の正確性は異なることが確認できた。また、口腔内スキャナーによる直接法で製作した 3Dプリンター模型を用いて製作した鋳造冠やプレス冠でも十分に臨床応用が可能であることが分かった。
7. 口腔内スキャナーの可能性
口腔内スキャニングデータを用いて 3D プリンターで樹脂製の作業用模型を製作できることは前述したが、それ以外に 3D プリンターの用途は多くある。口腔内スキャニングデータで CAD/CAM 冠を製作する方法以外に、金属成形できる 3Dプリンター装置(金属粉末積層造形システム)がある。現在はコバルトクロム材料が主であるが、コバルトクロムの金属冠やブリッジ、金属床フレームなどは臨床導入されつつある。この機器の特徴はデータをプログラムすれば1回400ユニット製作が可能でミリング機器より圧倒的に政策効率が高い。高価な機器で、中小の歯科技工所が購入することは難しいが、センター方式で各技工所から設計データを送信して加工した物を各技工所で仕上げるようにすればよい。
当医院で臨床応用した症例では、口腔内スキャニングデータを用いて金属粉末積層造形システムで上顎の両側臼歯部5歯にコバルトクロム冠を製作した。出来上がった冠を口腔内に試適すると無調整で装着できた。隣接面コンタクトの調整も必要なかった。内面適合を調べると CAD/CAM 冠より天井面は薄く内面隙間は均一ではなかったが、現状でも臨床的に問題のない適合状態といえる。
次に、口腔内をスキャニングしてパーシャルデンチャーの金属床フレームを製作した。この時、間接法と直接法の二つの方法でフレームの製作を行った。直接法で製作した金属床のフレームを口腔内で試適すると、無調整で装着できた。無理のない適度な摩擦を感じながら着脱が可能でパッシブフィットであり、歯の移動に伴うような摩擦抵抗は認めなかった。間接法で製作した鋳造床フレームを試適すると、挿入時の摩擦抵抗が大きく、歯の移動を伴った装着感を感じた。患者に装着感を聞いてみると同様であった。直接法で積層して製作したフレームは歯を締め付けるような装着感は感じられず、スムースに装置できたとのことであった。
一方、間接法で製作した鋳造床フレームを装着してもらうと、装着時に、歯が締め付けられるような感覚があり、着脱がきついと感じていた。この違いは、口腔内スキャナーは、無圧印象で従来の印象時のような歯の移動がないためと推測される。さらに咬合状態を確認すると、咬合面レストの咬合調整が直接法では必要がなかったが、間接法では咬合調整を必要とした。これから、金属粉末積層造形システムを用いた補綴装置の製作は、臨床応用が可能であることが分かった。今後、機器の導入が進めば、ミリング機器と併用していくことになryだろう。
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