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2020年11月 9日 (月)

Science 口腔環境を支える唾液研究 ⑩

続き:

9. 食事中の唾液

 飲食などの味覚刺激では、3大唾液腺のシェアは耳下腺唾液が50%を占める有意な腺となる。唾液を分泌させる刺激としては味覚刺激が最も強く、その中では酸が最も強い刺激となる。成人の全唾液では、最大と思われる刺激(260 mmol クエン酸溶液:2~3回の実験で舌から出血する被検者もいるほどの刺激)で約 7ml/min、7種類の食事での平均分泌量は約 4.0ml/min であった。5歳児では同様に最大分泌量は約 4.3ml/min で、6種類の食事での平均分泌量は約3.5ml/minであった。これらのデータはヒトの 1 日の総唾液分泌量を測定する際のデータとして利用された。

 2019 年度イグ・ノーベル賞の審査委員は、何とこの論文に目を留めた。1日の総唾液分泌量は教科書など多くの書物に 1~1.5L 程度との記載に目にするが、それを示す論文は存在しない。

 咀嚼とは嚥下に適した食塊を作ることと定義されるが、それには歯での粉砕だけではなく、食塊の水分量が関係している。食塊を嚥下するタイミングをヒトはどのように決めているのか。これに食塊水分量がどのように関係して いるかについて調べた。

 それは、コントロール(通常時の咀嚼時間)を100%としたときの咀嚼時間の調査である。硫酸アトロピン、塩酸ピロカルピンを服用した時の食物咀嚼時間をグラフに示す(図 略)。薬物非服用時を100%として比較すると、唾液分泌抑制時、促進時でそれぞれ咀嚼時間が有意に速くまたは遅くなっていることが分かる。特に分泌抑制時では時間がかかっていることが分かる。このことから、嚥下困難者の流動性食料などは、水分量が多すぎても「むせる」につながるため、嚥下に適した水分量を考えることが非常に重要であることが示唆される。

10. 唾液検査

1) 緩衝能検査

 唾液の緩衝能は重炭酸塩濃度が最も活躍している。この重炭酸塩は分泌量に依存して変化するため、分泌量が増すとpHも上昇する。同一人でも唾液の分泌量によってpH(重炭酸塩量)は著しく変化する(1~60 mmol/L)。う蝕との関連では、1日の口腔内が安静時におかれている時間が最も長い(睡眠時間を7時間として約16時間、因みにヒトの食事時間の平均値は約1時間)。したがってヒトの口腔内環境を左右する唾液は安静時唾液であり、安静時のpHが最も重要となるが、安静時唾液中の重炭酸塩はほとんど検出できないくらい低濃度(1 mmol/L 未満)であり、う蝕との相関を示した論文もほとんど見当たらない。

 臨床では刺激唾液の緩衝能を測定してう蝕リスク判定が行われているが、刺激の程度、それによる分泌速度の変化、1日の刺激唾液に占める時間の短さを考えると、刺激唾液を用いた唾液緩衝能でヒトのう蝕リスクを行うことは過値が低いと言わざるを得ない。

 臨床で刺激唾液を用いた個人のう蝕緩衝能テストが頻繫に行われているが、テスト用キットはなぜか日本でよく売れるとの評判であった。

2) 唾液中の細菌数

 唾液中の Streptococcus mutans (S. mutans)がう蝕発生のリスク判定として用いられている。Jensenらは1989年、唾液中の S.mutans を簡易測定するための新しい方法を発表した。彼は発表の前に、う蝕の発生と S.mutans との関連について、う蝕リスクの判定や予防に、睡眠中 S.mutans 数をカウントする方法は有効であることを述べている。

 しかし同時期に現在のう蝕状態、う蝕経験が将来のう蝕の増加と関係するという論文が報告されている。どちらの報告にも共通しているのは検査時の唾液中 S.mutans や Lactobacillus の数とう蝕の数には相関が見られるということである。

 う蝕軽症化という疾病構造の変化が現実となってきた今日、エナメル質初期脱灰のリスクや予防効果を判定することはこれまで以上に重要な課題となってきた。乳児の母親からの S.mutans の伝播が将来のう蝕の発生や増加に影響を及ぼすことから、定期的な唾液中細菌数の検査は口腔環境の維持に必要なことと思われる。

 

 

 

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