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2020年11月27日 (金)

「容量市場」とは何か ⑦

続き:

① 再エネ主力電源化などエネルギー大転換の流れに矛盾

② 気候危機や脱原発を無視

③ 不適切な既存電源が生き残る

④ 旧一般電気事業者に著しく有利な不公平な市場構造

⑤ 消費者への無用な負担を増す恐れ

 日本の容量市場は、本来の目的を見失っている。欧州などで容量メカニズムがここに来て注目を集めたのは、VREが急拡大し、気候危機のためにそれをさらに拡大する必要性があるためだ。日本ではその最も重要な目的が消え去り、電力安定供給だけになってしまっている。

 百歩譲って容量市場を導入するとしても、VRE拡大へ電力系統の柔軟性を増す電源が必要なのだが、柔軟性とは対極の原発が「安定電源」として、容量市場の恩恵を受けることは、本末転倒だ。

 日本の容量市場には、英国やEUのような炭素制限が設けられていないことも致命的問題なのだ。国のエネルギー基本計画では2030年に36%の石炭を残す計画であり、梶山弘志経済産業相による「非効率な石炭火力発電所100基程度の休廃止方針」でも新設を含めて3000万kWが残る。原発も含めて、その維持費用に使われるおそれがあり、全世界が挑戦している気候危機への対応も福島第一原発後の国民の大半が望む脱原発へも背を向けた、無責任な市場デザインとなっている。

 そもそも、日本の電力市場は、容量メカニズムを検討する前提条件が整っていない。電源の90%を旧一電が持ち、小売と一体化しているため、容量市場は旧一電に圧倒的に有利だ。送電部門も子会社化となる法的分離が4月になされたばかりで、事実上、旧一電と一体だ。欧米のような発電や小売と独立して系統や市場を管理する組織とはほど遠い。

 その上、容量市場という手段の選択を間違った。「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは火力発電」と自省のウエブページに公言する経済産業省には、肝心の「柔軟性」という認識が欠けており倒錯している。

 容量市場は難しい。エネルギーに詳しい知人の国会議員も「分からない」というほどだ。「市場」や「電力技術」など経済と技術それぞれの専門領域が複雑に絡み合っており、電力業界用語や専門語がいろいろ登場するため、専門家以外には確かに難しい。しかし、何が課題で何を解決しようとしているのか、なぜ容量市場が必要なのかという最も重要なことが真正面から議論されていないことが「分かりにくさ」の本質ではないか。この制度を検討してきた審議会の議事録を読んでも、容量市場ありきで細かな制度設計の議論ばかりに入り込んでいる。容量市場を必要とする人たちの「本当の意図」を伏せたまま、本質論を避けて「専門性の濃霧」の中に逃げているのではないか。

 欧州連合でも、2019年6月に電力市場改革を含む「クリーン・エネルギー・パッケージ」が決定され、そこでは容量メカニズムも重要な論点となった。気候変動への対応のため再生可能エネルギー(VRE)を飛躍的に高めることを前提とし、安定供給できる「将来の電源の適切性」(「アデカシー」と呼ばれる)を慎重に精査することを義務付けた上で、「容量メカニズムは一時的かつ最後の手段」と原則で定めた。「日本型容量市場」の最大の問題は、そういう大きな目的や方向性がなく、十年一日の「安定供給」の発想だけで、いま起きつつあるエネルギー大転換の現実からも、気候危機に対する国際社会や将来世代への責任からも背を向けていることだ。

     日本型容量市場は取りやめ、ゼロから見直すほかない。 

 

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