Science 口腔環境を支える唾液研究 ③
続き:
2. 口腔内の環境は均一ではない
1) 口腔内各部位への唾液到着量の差
口腔は狭い環境ではあるが、微生物にとっては宇宙のような広い空間であり、彼らは自由に住みやすいところを選び生活を営んでいる。
Weatherellらはフッ素溶液で洗口後、口腔の各部位に残留するフッ素量を計測することによって、Lecomteらは一定量の塩化カリウムを含ませた寒天を一定時間口腔内に留置後、塩化カリウム濃度の減少量を測定することにより、その部位に到達した唾液量の差を明らかにしている。それらによると唾液クリアランス率は口腔内各部位で異なり、下顎前歯部舌側面が最も優れ、上顎前歯部唇側面が最も劣っていること、上顎よりは下顎が、頬側よりは舌側が優れていること、唾液は口腔前提を近心方向に、口腔底を遠心方向に流れることなどが示された。また口腔内面積と嚥下直前・直後の口腔内唾液量から、口腔内唾液フィルムの厚さを推定し、そのフィルムが各部位でどの程度の速度で移動しているかについての推定を行った。
その結果、上顎前歯部唇面と下顎前歯部舌側面ではおよそ5倍の差があることが示された(図 略)。このやり方は寒天に溶解させた塩化カリウムの濃度が50%になる時間(Half time)を求めて各部位を比較した (Half time が長い部位は唾液の到達量が少ないことを意味している)。
このような研究により、唾液は口腔内に分泌されると、薄いフィルムとなって流れ、嚥下されるまでに微生物や酸などを吸収して口腔外に除外するが、その唾液は口腔の隅々にまで等しくいきわたっていないことから、口腔内環境は均一ではなく、各部位によって異なっていることが明らかになった。
これらのことは5歳児の乳歯列においても検証を行い、部位特異性は哺乳瓶う蝕の発生に関与すること、乳歯列における発育空隙の存在は口腔内の唾液の流れをスムーズにさせることなどを報告した。
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