ネットワーク型ビジネスモデルと働き方の現在 ⑥
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下請け企業は、定型的職務を遂行するための能力を育成することができても、戦略立案力や連携構築力を育成することが難しい。これが、下請企業が「ジョブ型雇用」となる所以だ。これは、ピッツバーグの下請企業で働く技術者の状況と同じだ。下請け企業と同様に、期間契約労働者(いわゆる期間工)やパート労働者、派遣労働者などが定型的業務の担い手として、そして景気の調節弁として柔軟に活用されてきた。こうしたことは、働く側からすれば不安定さの温床になった。
ネットワーク型ビジネスには連携力の作り方がもたらす問題もあった。AIやICTが存在しない時代に生み出されたことから、複数の企業と個人をつなぐことは人間同士の交流に頼らざるを得なかった。それは、就業時間が終わってからも続く会議や打ち合わせ、酒席や休日のゴルフへの参加といったかたちで行われた。仕事とプライベートの時間の別なく、お互いの気心を知ることで連携力を作っていたのである。これは、「男性稼ぎ頭モデル」に依存してきた。出産や育児、家事などの負担がのしかかる女性には負担が大きかったから。こうしたことが、仕事や労働条件における男女間格差を生み出した。これは女性だけでなく、男性にも良い結果をもたらさなかった。仕事がプライベートに食い込んでくることから、長時間労働や濃密な人間関係がもたらすハラスメントの温床にもなっていたのだ。
これらの問題が日本で解決されていない状況でプラットフォームビジネスが登場した。そのために、日本発のネットワーク型ビジネスが抱えていた様々な問題を引き継ぎ、そして発展させてしまったのである。
ネットワーク型ビジネスつくられる連携は国境を超えるようになった。そのため、中核的企業の経営理念には統合(インテグリティ)という言葉が使われるようになっている。そうでなければ、多様性のなかで埋没してしまうからだ。その姿はさながら一つの国家のようである。扱うものも、交通、発電、スマートシティの運用、行政システム、ビジネス基幹システムというように、社会インフラの領域に入ってきている。日常的なオペレーションで行きかう情報を大量に蓄積し、AIによって分析が加えられる。ネットワーク型ビジネスは人間が永遠の生命を求めるのと同様に、自らの存続を図ろうとする。だからこそ、SDGs にも参加している。しかし自らが内包する矛盾はそのままである。
内部で中核的に働く労働者は、AI、ICT、ビッグデータを駆使して密接に連携する。プロジェクトの進捗管理、同僚とのコミュニケーション、人事評価、教育研修といったものはすべてオンラインで実行可能になっている。こうした変化は、IT や金融系の企業を筆頭に日本の大企業で 2018年頃から活発にみられるようになっていた。RPA の導入の拡大や自分の机を持たないフリーアドレス制のオフィスが増えた時期と符合する。つまり、どこで仕事をしようとも連携が可能な仕組みが整い始めていたのである。
2020年4月のコロナウィルス禍のさなか、緊急事態宣言に呼応してほとんどの企業が在宅就業を始めた。宣言は5月に解除、中小企業の多くが在宅就業を取りやめたが、大企業では継続している。このことは、連携を促進するシステムが大企業の多くにすでに導入されていたということを明らかにしたのである。同時に、中小企業は設備投資を行なう資金がいぜんとして不足していることも露呈させることになった。
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