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2020年12月24日 (木)

ネットワーク型ビジネスモデルと働き方の現在 ⑤

続き:

   ネットワーク型ビジネスに内在する問題

 冒頭で、「AIに人間の仕事が置き換えられる」「AI、IT技術者の育成が急務だ」「日本型雇用慣行を改めてジョブ型雇用にすべきだ」「新規学卒一括採用をやめるべきだ」「フリーランスや雇用類似労働者の権利や社会保障」「非正規雇用労働者と正規雇用労働者の間の処遇格差」「所得格差とそこからくる大学進学率などの教育格差」を掲げた。一見すればつながりがないようにみえる論点はここにきて連結する。

 「AIに人間の仕事が置き換えられる」「AI、IT技術者の育成が急務だ」ということは、ネットワーク型ビジネスで中核的な役割を担う人材ことを想定すれば理解しやすい。ネットワークの構築にはAIやITといった科学技術に長けた人材が欠かせない。それだけではなく、戦略立案やネットワーク全体の連携の促進といった役割も求められる。こうした職務に専念させるために、企業は定型的で単純な職務を取り除こうとする。このため、「RPA (Robotic Process Automation)」と呼ばれるホワイトカラーのタスクの自動化や、「シェアードサービス」と呼ばれるホワイトカラー業務の請負企業の活用が進んでいる。その結果、ネットワークの中核に位置する人材の能力は、戦略立案と連携力の構築に特化され、より高度化していく。当然のことながら、そうした役割を担うことができるのは一握りの人材だ。だからこそ、企業は優秀とされる大学からの採用にこれまで以上に力を入れることになる。そこには熾烈な獲得競争が生まれ、「新規学卒一括採用」のように、大学のレベルを問わず一括で採用活動を行なうという余裕がなくなってしまう。獲得した人材は長期的な戦略立案や連携力の構築に力を発揮することが期待される。その見返りとして、手厚い教育訓練機会や高額な労働条件保障される。こうしたことは世界中でみられるようになっている。

 アメリカの巨大IT企業「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に正規雇用された技術者と請負会社で働く技術者を例にあげて、中核人材とそうでない人材とで何が違うのかをみてみががよう。2019年にグーグル社が委託する企業で働く技術者が労働組合を結成した。労働組合の要求の一つに年収5 万ドルの達成というものがあった。この額は正規雇用されている技術者の平均年収の 1/4 に満たない。要求額が 5万ドルということは、実際に手にしている年収はもっと低いことを意味している。彼らの多くはカーネギーメロン大学で博士号を取得しているという。その年収は学歴にみあったものではない。この事例からわかることは、学歴のみならず、卒業の時点でどの企業に採用されているかが重要になってきたということである。その理由は、戦略立案や連携力の構築に必要な能力が短期間では育成できないから。ネットワークの中核に位置する企業は長期間にわたる教育訓練機会を提供するが、請負企業はそうではない。つまり、同じような職務を担っているようにみえながらその内容には大きな差があるのだ。違いは大学院を修了した直後にグーグル社に採用されたか、されなかったかということにすぎないのだが、わずかの差が明暗を分けたのだ。

 「非正規雇用労働者と正規雇用労働者の間の処遇格差」については、次のようなことが言える。正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務はネットワークのなかで分業されることになり、同一の企業には正規雇用労働者と同じ職務を担う非正規雇用労働者はいなくなっている。それだけ、中核人材になる道は狭き門になっているのである。こうしたことから「日本型雇用慣行を改めてジョブ型雇用にすべきだ」との議論を考えてみれば、中核的な役割を担う人材の職務から定型的職務を切り分けて RPA やアウトソースによって企業の外側に出すという構図が浮かび上がる。

 「フリーランスや雇用類似労働者の権利や社会保障」については、ネットワークの周縁でコスト削減を担うからこそ、これまで企業が正規雇用のなかで担ってきた負担を公的社会保障に付け替えるということになる。

 だが、こうした特徴はプラットフォームビジネスだけのものではない。元来、日本発のネットワーク型ビジネスモデルに内在していたのだ。そのことを説明しよう。

 日本発のネットワーク型ビジネスは従来からコスト削減を担う下請け企業を必要としてきた。このことが「経済の二重構造論」として知られてきた。これは、社会的地位の階層化、つまり元請けか下請けのどちらに雇用されるかで日常生活の場面でも上下関係が生まれるということや、元請企業と比べて下請け企業が設備投資や研究開発資金が不足していたり、賃金が低いために、企業間の上下関係が固定化されてしまうということを意味している。こうした上下関係は次のような問題を引き起こしてきた。

 

 

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